四百九十三生目 雷神
ジャグナーと雷神。
ちなみに雷神は別に神様ではない。
ではなぜ雷神なのかというと。
「……ん……」
「ああ、お前も最近マジの稽古はできなかったんだろう? 使わないと腕もなまるが武具もすねるからな」
「……ぁ……」
「いけー! 雷神!」
「相変わらず何言ってるかわからないな雷神! いいぞ、腕で示せー!」
「……ぅ……」
彼の戦い方と容姿が稲妻のごとく。
ゆえに勝手についた名前が雷神。
なお本人は性格的に内気で声がとにかくちいさい。
実は本名もニックネームもあるのに誰もそちらを呼んではくれないのだ。
何せ名乗ってもほぼ聞き返されるので。
圧倒的小声なのに圧倒的実力でのし上がったのが雷神だった。
「なんなんですか、あの魔物……たくさんの武器を背負って、なんだかまるで覇気もありませんが……熊魔物の方と比べると、まるで弱そうですが」
「まあ、見ててください。多分彼はすごいですよ」
そして雷神は内気に重なり優柔不断だった。
何に対してもひとつのことだけをやり続けるのを苦手としており気づけば同時にやることを大量に抱えている……
それが武器にも現れていた。
本来武装なんてある程度しぼって鍛えたほうが技量はあがる。
しかし雷神は1つをやることは難しかった。
代わりに全部やって全部身につけた。
「…………」
「そうか、滾っているか……なら、行くぞ!」
「……!」
互いが少し距離をとり向かい合って。
――瞬間。
結界が張られると同時に凄まじい空気の圧が放たれる。
結界がなければ周囲が吹き飛んでいた。
互いの先制技が戦いの中央で衝突していたのだ。
雷神はまさしく雷鳴を。
ジャグナーはクマ型の像を光の岩塊として放ち雷を食っていた。
その両者衝突こそ凄まじい圧の原因。
雷を喰った熊はその顔が砕けようと凄まじい早さで接近する。
まだ爪があると雷神に襲いかかり……
瞬時に砕けちる。
雷神が背負っていた剣が瞬時に叩きつけられ斬り裂かれたのだ。
しかしその背後には本物。
ジャグナーが急速に迫っていた。
……ジャグナーの戦いタイプはつかみ型と言われる。
接近し相手を掴んでのしかかり連続で近接殴り込みをするタイプだ。
高い防御能力を活かして的確に距離を詰めるのはやられる側にとっては脅威そのもの。
対する雷神はおちついてまたたく間に槍に持ち替えて差し向けていた。
素早い突きは光を巻き込むように輝き突撃する。
ジャグナーはスレスレでそらすように腕で弾き振り下ろされる前に詰めようとする。
雷神に得意な距離はない。
どの距離も微妙で常に保ちたくない。
相手の得意距離なんてもってのほか……
だから。
ジャグナーは唐突に頭を下げる。
いつのまにか槍から斧に切り替えていた刃がジャグナーの真上を通る。
そして一瞬のうちに雷神は背後へ跳んだ。
跳んでいる最中も弓に切り替えて射撃。
ジャグナーも勝手知ったる様子で矢を弾く。
単に近づくのかと思いきや雷神を軸に横に走る。
地面を勢いよく殴ると光が土煙を上げながら地面を走る。
すると地面がめくれあがりささくれていった。
雷神が着地しづらそうに横へ降りる。
すると地面から岩槍が生えて雷神を刺し。
次の瞬間には岩槍がバラバラになる。
雷神の手には双剣。
当然ジャグナーは全身に光をまとって猛追し突撃し雷神は小盾で受けた流す。
雷神が手にした武器は本来の大きさを取り戻すようだ。
瞬時の切り替えが凄まじいやり取りだ。
全員が息をのんで見守る。
そこからはもう激闘だった。
さっきまでのは濃縮された時間内のこと。
リアルタイム感覚に戻せば互いの閃光が結界内で散りまくっているように見える。
まさしく雷光が走るような攻めと避けを繰り返す雷神。
わりとどっしり構えているはずなのにまともな被弾せず手先が揺れると攻撃を弾き体が揺れるといつの間にか雷神の背後をとっている。
それが通常時間間隔で見たふたりの戦い……
「嘘……魔物がここまでの技量を?
これではまともな人では相手すら……」
ランムが驚くのも無理はない。
魔物本来の戦い方は自身の強みを最大限押し付けて戦うもの。
しかし今の戦いは互いに互いのスレスレ攻撃位置を合わせ避けて弾き距離を得て……
まさしく相手を探るような戦い。
相手の意図をくんでそこから正解を導き出す。
そんなことにふたりはきづいているのだろうか。
戦いが激しくなるにつれフィールド内は嵐がふき荒れたかのように乱れた。
手合わせの模擬戦なのにほぼ命のやり取りだなあ……




