四百九十生目 死霊
ランムのいう要請が異常って……
「それは、短期間にやたら要請があったということですか?」
「もちろん。でなければわざわざ、魔物の集落が何らかの資金集めをし、裏工作をしていないかだなんて探りに来ませんよっ」
それ言っちゃって良いのだろうか。
疑問は銃の射撃音にかき消される。
こういってはなんだけれど構えて撃っているランムはすごくさまになって見える。
「裏工作なら他国にされかけた、というのなら聞いていますよ」
「へえ、例えば?」
「いえ、私の立場ではなんとも……そういうのは、ちゃんと報告が上がっているはずですから」
危ない危ない。
少し言葉で探ってみようとおもったら月組は朱の大地国から諜報と妨害工作うけていたのを知らなかったらしい。
逆に余計な話をしてしまうところだった。
ランムは気にすることなく最後の的を射抜く。
「全射全命中、おめでとうございます」
「ふう……まあこのぐらいはやらせてもらいますよ」
ランムはひと息ついて狙撃銃を手慣れた感じでロックししまう。
どうやら満足したらしい。
「では、次へ行きましょうか」
道すがらアノニマルースの異常性と実際に見たさいの納得を話してくれた。
「申請や許諾数が異常なのは話しましたが、実際に見て逆に少ないくらいなのがわかりましたよ。何なのですか、この急激な発展は。わたしたち人の常識ではまったく図りきれませんよ」
「そう……ですかね? 割と初期から本格的に施工計画たてればこのぐらいは範疇内かと」
「そんな想定内、狂ってるんですよ……しかも」
ランムが道すがら通っていくスケルトンたちに目をやる。
今日もよく働いている。
ちなみにユウレンが作ったゴーレムなので魂は存在しない。
「……あんなに質の良いスケルトンたちが量産されているだなんて、それもおかしいんですよね。だからこそ、街が出来上がる速度が異常なんでしょうが」
「あ、工房は近くにありますよ、寄っていきます?」
「工房……もしかして、死霊術師のギルドですか。興味は、ありますね」
ということで少し道をそれる。
ユウレンたちの工房はここからすぐそこにある。
と思っている間にも見えてきた。
外観は非常に重々しく少し神秘的。
ニンゲンが住むところという気配はない。
わざわざ近くに墓があるが実は空墓。
墓地というものが近くに配置されていることにより土地効果がうまれ死霊術師的に大事な力の補佐になると聞いている。
私も死霊術師なのだ!
(見習いな)
ドライそこはいいじゃないかそこは!
中に入れば他のギルドと同じくカウンターやら窓口やら椅子やらあるが大事なのは。
そこで掃き掃除をしていた長身お年寄りの男性。
「カムラさん!」
「おや、いらっしゃいませローズ様と、お嬢様。今日はウロス様はおでかけに、ユウレン様は奥の清骨堂ににおられますよ」
目を細めるようにしている紳士。
カムラさんだ。
実は魂のあるアンデッドなんだけどそうは見えない。
「失礼、皇王からの使い、月組だ」
ランムは手慣れている感じで軽い挨拶をする。
失礼とは言っているものの一切下側に回ったり謙遜したりする気がないいいまわしだ。
月組としての威圧感がすごい。
「これはこれは。私、死霊術師ギルドで補佐を務めさせてもらっています、カムラと申します。見学のご予定ですか?」
「済まない、アポイントメントはないのだが……」
「いえ、大丈夫です。月組のみなさまの話はおうかがいしています。ぜひどうぞ」
カムラさんも月組の……ひいてはランムのこともしっている。
知っていてお嬢様呼びなのだから侮れない。
ぜんぜん済まなさそうなランムは肯定しカムラさんと共に奥へ行く。
清骨堂とはまさしくスケルトン工房だ。
宗教的な意味合いもあり工房と名付けるのは問題があるらしい。
あくまで元生物かつ有機物を組み上げてつくるもので邪魂や怨念が残ったりしないように必死にお焚き上げする。
まあ魔法的な作業を工務的な作業に合わせて割とちまちま時間がかかる。
ただここで手を抜かないことが質の良いスケルトンの条件。
通常のゴーレムではありえないほどにローコストかつ身軽で長年扱えるスケルトンが出来上がるのだ。
パッとそのばで生み出してその場で崩すタイプとはまるで違う。
普段遣い用は圧倒的にここで作ったほうがいい。
中に入れば……
……。
わかってはいたけれどハックの制作した土人形たちで埋め尽くされていた。
相変わらずちょっと引くくらいのハック愛。
やってわかったけれどこういう異様な雰囲気を作るための土人形やら壺やらが大事なのは本人のフィーリング。
ピンとこないと十全に力を発揮できないらしい。




