四百八十八生目 射撃
ナブシウの屋敷から移動して。
今度は射撃訓練所にきた。
ここでは日夜射撃が得意な魔物たちが自身の腕を高めようと的に向かい合っている。
実は軍事施設ではない。
軍事用施設はまたべつのところにあるのだ。
魔物は案外射撃系が多い。
自身の肉体一部をスキルとして撃ち出すもの。
自身の属性エネルギーで現象を起こし飛ばすもの。
後付の武器で撃ち出すもの様々だ。
私は自身の肉体をスキルと武器だね。
どうも土魔法は属性エネルギーを飛ばして攻撃する指向性がないらしい。
そのかわり地面から生やしたりする魔法があるのだから目に頼る相手ならばやっかい極まりないのだろうけれど。
「随分と、賑わいを見せていますね。一般市民がここまで鍛錬するのは不自然なように思えるのですが」
またランムの目が細められる。
ううむ魔王のために尽くそうとしているように見られてしまうな……
色眼鏡でしかないんだけれど。
「鍛錬を繰り返すことで、ストレス発散もあると思うんですが……そもそもアノニマルースの起こりが、スカウトされたものたちが多いってことが原因ですね」
「スカウト?」
「まあ、もちろん魔物たちなので最初は衝突があり、そのあとに……という形が多いですね。勝った側の話は良くきいてくれますし」
コレは多分"無敵"も関係している。
私が直接じゃなくても"無敵"を受けたものも"無敵"の影響を発するのだが……
その力が発揮するのに1番いいのがぶつかりあいだからだ。
"無敵"は明確な使いみちとしては敵愾心を削る能力。
これがないと回復やサポートをよくする私はめちゃくちゃに狙われやすいからね。
そして大事なのは種族の垣根をこえるということ。
意外に種族の壁で絶対仲良くなれない相手がいるとしても仲良くなれるきっかけが生み出される。
牙が抜けるのが即時的な効果なら牙を向けるかどうかを遺伝子に左右されなくなるのが恒久的な効果か。
「なるほど、殴り合いで寄ってきた魔物たちだから、もともと戦闘はするのですね」
「ええ。ニンゲンたちの多くは既に戦闘をしませんが、魔物は野生で生きてきた身としてみんな戦闘が身近なんです。しかも、強くなることでよりすごいトランスを目指せる。それを目の前で見せつけられる環境ですからね」
ニンゲンたちはトランス方法が多種多様だが魔獣たちは1つしかルートがないというのは珍しくない。
まあ私のことなんだけど。
自分たちにはまだ見ぬ先があるのだと余裕ができて認知した者たちは多い。
そもそも私の能力関係で相手の強化や強化受け取りができている以上通常より異様に成長しやすい環境らしい。
直接目をつけている相手はもちろんのこともはやアノニマルース民として認識されているだけでも効能があるようだ。
もちろん大小の差異はあるが。
「まあ、鍛錬そのものは良いことです――おや?」
今ランムの声が途切れるほどに大きな発破音が聴こえた。
この特徴的な銃の音は……
1撃が非常に長くまた連射もない。
また音が響く。
しかしこの音……音の感覚って。
「狙撃銃の音……どこから? 一体、何メートルの距離を!?」
発射音と着弾音のズレ。
その位置の遠さ。
そこから逆算してもあまりに遠くから撃ってることは明らかだった。
「あ、あそこですね。音的に」
私が向いた先にランムも見る。
ここからだと豆粒にも見える何か。
そこそこ高所かつはるかなる遠さ。
ずっと遠くから火を吹けば誰もいない的へと弾丸が飛ぶ。
恐ろしいまでの腕前をほこるのはレッサーパンダの魔物。
オルオルさんだ。
私は大きめにイバラを伸ばして手を振るように揺らす。
"鷹目"で見てみればオルオルさんもきづいて銃を上げた。
「凄まじい腕前……それに、銃の能力も半端ではなさそうですね」
「ええ、彼のは特別なチューンナップがされています。軍人ではないのですが、射撃の先生もしていますよ」
「なるほど、射撃の……わたしもぜひ競い合いたいですね」
ランムの雰囲気が一瞬だけ変わる。
ゾクリとするような気配。
戦いの相手を見つけたかのような。
ランムも銃使いなのかな……
オルオルさんオリジナルの銃は私が地球の迷宮でざっくり作った。
ただその後にこういうものかと理解して似たようなものやアレンジしたものを量産するアノニマルース側もなかなかおかしい。
服や製鉄はよく知るものの割とマルチジャンルでとんでもないことになってきている気がする。
もちろん鋼は銃にも大事だが……
それにしてもオルオルさんかなり手加減しているようにみえる。
命中精度はちゃんとしているけれど単に撃っているだけだ。
オルオルさんがその気なら音速の壁を超えて的を砕き壁を抜いて地面に吸い込まれるんだよね……




