四百八十七生目 筋肉
ナブシウはナブシウの神を邪神扱いされても怒らなかった。
というかむしろ誇った。
……なんとなく危険な予感はしていたけれどやはりしっかり邪神だったかあ……
現代では既にこの次元にいないのだけが救いでは有る。
「その神の名前、資料にもなかったのですが……もしやあなたはご存知なのでは?」
「当然だ。その名は……」
ランムが恐れることなく聞く。
そういえば私も聞いたことはなかった。
それよりも我が神自慢の面倒さが上回って。
この場を少しの静寂が包み。
ナブシウが口を開く。
「✦∧∨∧∨∧∨だ」
え?
今ナブシウはなんと言ったのだろう。
聞き取る文字化けといった感じに単語が読み取れなかった。
「今、なんと?」
「我が神の偉大なる名前はそうみだりに口にしていいものではない。そもそも1度聞けば我が神の深淵の一端に触れ、二度と忘れられぬ想いを魂に刻むことで――」
ベラベラ話している間に私とランムは顔を合わせる。
そして確信した。
ランムも同じように聴こえたことが。
「あの、うなにゃにゃにゃ〜と聴こえましたよね?」
「ええ、うなにゃにゃにゃ〜と……もしかして、自分の名前に制限をかけている……?」
「――とまあ、我が神が偉大故に、その名をみだりに使うことを禁じられている。信心の足りぬお前らでは仕方ないだろうが、おそらくその名すら理解することも叶わぬだろう。これは非常に不愉快なことではあるが、我が神の名を呪言として使い相手の魂や精神を破壊し殺すという使い方をするらしい。まったく、聞かせて壊す方も方なら、聞いて壊れるほうもほうだ」
「ナブシウ!? 今私達が聞き取れていたらうっかりで呪われていたの!?」
さらっと重要情報流さないでほしい。
うなにゃにゃにゃ〜の中身を聞き取れていたら危なかった。
「フッ、私は我が神により祝福が施されている。故に、私が我が神の名を呼んでも呪うどころが祝言にしかならんな」
「「ああ……」」
私とランムはうなずき合う。
つまりナブシウは名前を言葉に出来ないということだ。
それなら絶対呪いにはかからない。
「それにしても、名前だけで成立する呪いですか、それはとんでもないですね……」
「ああーー! 無理ーー!!」
私達の話を急なドスンという音と絶叫が引き戻した。
ローズクオーツが重りを地面に落とし同時に紐に引っ張られた音だった。
そもそも宙吊りだったのに天井まで上がっていってしまった……
「ちゃんと錬金の足が砕けるまでやれと話しただろう?」
「いや、無理ですって! そもそも錬金で後付したものと手を同じ感覚で扱うだなんて、めちゃくちゃ難しいですよ〜!」
「だが、それがわからねばお前の特徴である錬金による合身や変化を使いこなせなまい」
「あ、そうだった。私のゴーレムを紹介しようとここまで来たんだった。あの宙づりなのがローズクオーツ、魂のあるゴーレムです」
「こんな体勢で紹介されるゴーレムなんて、どこ探してもいませんよー! ぐえ」
ナブシウが紐を操作してローズクオーツが解き放たれる。
頭から床に落ちてゴスンと重い音が響いた。
生体じゃないからね……
それでも平気そうに立ち上がり足が錬金使用により引っ込む。
というかこちらが素だ。
「なんだか、わたしの知っている錬金とはだいぶ違う……」
「私の知っているものとも違いますね」
「こほん、初めまして、月組のランムさん。わたくし、ローズオーラ様につくられた、ローズクオーツになります」
かわいらしく丁寧にローズクオーツは挨拶する。
たぶんさっきのぶんを取り戻したいのだろう。
第一印象がめちゃくちゃだろうし。
「これは丁寧に。魂が宿っているというのもなんとなく理解ができる受け答えです。少なくとも、ただのゴーレムが吊るされたあげく泣き叫ぶことはしない」
「忘れてくださいーっ!」
いやあローズクオーツが叫ぶけれどあれを忘れるのは至難のワザだとは思うよ……
そうこうしている間にまた吊るされていくローズクオーツ。
もはや何も言わず足を錬金で生やしたが心の涙が見えるようだった。
「……どうですか? 量産される兵器に見えますか?」
「……少なくとも、兵器ではありませんね。ここまでのびのびとしているゴーレムというのも気になりますが、私の興味分野とは違いますし……」
なるほどランム自体が物騒なもの好きなのかな。
そう納得しつつ空に舞いまたおもりを自力で引き上げたローズクオーツを見上げた。
「どう……です……かあ……!」
「まだ力に頼っているな。力におごらず、本質を見極めろ、それが我が神の錬金術だ」
「3大邪神の錬金術とはゴーレムに筋トレを化すような謎の行為だったのか……?」
「私もわかりません」
その言葉と共に次の場所へ向かうこととなった。




