四百八十六生目 重量
私達はコーヒーを堪能したあと移動する。
ローズクオーツにも興味を持ってくれたようだからら。
ローズクオーツの位置は私ならば常にどこにいるかなんとなくわかる。
しっかりと意識を集中すれば特定は可能だ。
普段から常に監視するような使い方はしない。
疲れるしね互いに。
いた場所はなんとなく嫌な予感がするところ。
まあいつもいるところではあるんだけど……
砂漠の古代神に飼われる小さな神。
金属な犬の神で名はナブシウ。
そのアノニマルース別荘にローズクオーツはいた。
「ここは……随分な豪邸ですね。一般市民からすれば、相当級だと判断されますが、ここの情報は?」
「ここ、個人宅なので多分個別の報告は行っていないんですよね」
「あなたの?」
「いえ、知り合いの……とりあえず入りましょうか」
私達は相変わらず異様に華美な屋敷へと入っていく。
異様さは使われる豪華よりもその様式たちが明らかに異国のもの所以だ。
ランムもあちこち視線をさまよわせる。
ただ異様に豪華なのも事実。
金銀財宝ざっくざく。
ただナブシウ的には庭にある石を使っているだけだろうが。
ここの建設には宝石の砂漠輸出制限を解除してある。
ナブシウのものだしね。
ゆえにここに使われている材質はまさしく小国の1財産程度はあった。
ランムがだんだんと嫌な汗をかいてきているにおいがする。
「その……ここ、全体的に狂ってはいませんか?」
「えっと、知り合いが妥協したくないらしくて……」
そうこう話しているがどんどん私を見る目が怪訝なものになっていく……
少しずつランムのにおいに対しても理解が深まってきた。
同じ目の細め方でも結構においが違う。
そうして目的の部屋までたどり着く。
当然のように玄関は誰にでも開け放たれここまでなんの通知もなしにきたが問題ない。
ここはナブシウの疑似領域なのだから認知されたうえでほっとかれているのだ。
「入るよー」
「ああ」
そのことを把握しているがゆえにふたりがいる部屋に向かって声をかければ驚くこともない。
扉を開けて中へと入った。
中では鋼の黒い身体を持つナブシウと目的のローズクオーツがいた。
ただ。
「やああぁぁっ、ちょっとっ、きつい! きついですってナブシウさん!! このまま放置しないでくださいー!!」
「とはいえ、私が手を出せば鍛錬の意味がない。そこまでは持っていったのだから、問題はなかろう」
「いやああぁ!!」
「えぇ……?」
ランムが驚きのあまり思考が止まった光景。
それはローズクオーツが逆さ吊りになりその状態で足と手から紐がくくられて滑車を通しておもりを引っ張る姿だった。
新手の拷問かな?
しかし足だ。
ローズクオーツに足。
ローズクオーツは足なんてない。
つまりあれは足に見える錬金パーツだ。
つなぎ目が自然で前よりも腕が上がってるけれど……
「えっと、これって一体何をしているの?」
「何、技術面はともかくとして基礎が全くできていないのでな。まず錬金術のことを身体になじませている」
「はぁ……? あの、あなたがこの屋敷の?」
ランムはローズクオーツを見なかったことにしたらしい。
いやそっちを見に来たはずなのに……
それとナブシウをこの場の主とすぐ見抜いてみせたのは偶然ではないだろう。
まずここが魔物の街だということ。
見た目こぢんまりとした犬だが生きる金属で異質なこと。
そして何より実力が秘められているということ。
月組の観察眼は本物だろう。
「ふむ、たしかにそうだがお前は?」
「失礼。わたしは皇王からの使者、月組です」
「ふむ、ツキグミ。ローズの知り合いならば特に何も言わん。我が神の威光の一端をこの屋敷から感じていくが良い」
ナブシウがいつもどおりなのはともかく……
今の言葉でランムが目を細める。
「例の3大邪神の紋様ですね」
「ほう、我が神を知っていたか、ツキグミ。確かにニンゲンたちからしたらあまりに強大すぎて邪神と崇められていたな」
何か今ヒヤリとする単語が流れたような。
そしてそれを平然とナブシウも受けたような。
……3大邪神?
「名すら伝わらぬ、言葉にしてはならない3つの邪なる神々。しかし残された資料にはその存在を伝えるまのがあるのです。ただし、本来は禁忌中の禁忌、国でも限られた者にしか見せられない資料……それがほぼそのままあったのだから、逆に記憶の方を疑いたくなるのは仕方ありませんよ」
「えっと……一応ナブシウ的には邪神あつかいはオーケーなの?」
「矮小でたびたび襲いかかろうとしてきた昔のニンゲンたちが、なんとか振り絞って存在を伝えた恐怖心を感じて、我が神の容赦なさに感激する想いだよ」
うん。
ブレないね……




