百五十三生目 地質
「それで黒蜘蛛たちと話したことは、ええと……」
「ローズちゃ……もうひとりの幼いローズさんの人格から指示を受けた通り敗北した彼らには素直に群れ全体が配下になるように通達しました。その場合に得られる一定の保証も説明しました。黒蜘蛛自体は良かったのですが、他の蜘蛛たちは未だ混乱のさなかだから少し落ちつくまで待ってほしいそうです」
「そ、そこまで話進んでいるんだ……」
アインスがめちゃくちゃ気をきかしているのかそれとも周りをこき使うのが上手いのか……
ともかく事態は私の思うよりは遥かにはやく進んでいるようだ。
今ここにいるのはジャグナー、インカとハック、そして妖精たち。
アヅキは忙しそうにあちらこちら飛び回っている。
そこからさらに時間がたってドラーグも空から帰ってきた。
相変わらず無音だから見るまでわからないので少しびっくりさせられる。
「あれ、ローズちゃん……ではなくてローズ様ですか! お目覚めになったんですね!」
「うん、いつもの私だよ。あ、事情もろもろはもうみんなから聞いてるけれど話し合いはどうなった?」
「わかりました、では報告しますね」
ドラーグは地面に降りて私たちに結果を報告した。
「まず赤蛇なんですが最初はかなり混乱した様子でした。周囲の蛇から治療を施されたら少しは落ち着いていましたが……なぜ生きているのかが不思議といった様子でした。
話はなんとか聞いてもらえて、改めて向こうで協議して決めるそうですが、いい返事が貰えそうでしたよ」
良かった、どうやらなんとかなりそうだ。
「みんなありがとう、どうやらなんとかなりそうだね」
「あ、私達からもありがとうございます! 今回の恩は一生忘れません!」
「本当にローズたちがいなかったらどうなっていたか……本当にありがとうな!」
妖精たちはぺこりとお辞儀した。
やっとひと息つけるようだ。
「ところで赤蛇と黒蜘蛛をどうにかする依頼をこなす前に話していたことなんだけれど……」
「うん?」
「私達がここに住んで良いって話、結局良いんだよね?」
「もちろん! むしろ歓迎させてもらいます。ここを救ってくれた英傑ですもの、ぜひお手伝いさせてください」
妖精たちは快くオーケーをくれた。
あっとそういえば。
「他の仲間たちは良いっていうの?」
「まあ大丈夫だよ!」
「嫌とは言わせませんし、まず言わないと思います」
聞けば今回の件まわりでは妖精は一任されているのだとか。
ほぼ妖精の仲間たちはこのふたりにおまかせ状態らしい。
「あ、そうだ! なんなら私達の仲間のところまで案内しましょうか?」
「いいの?」
「ぜひきてよ! この迷宮を救った英傑を紹介したいからさ!」
確かに一度行ってみるのもいいかも知れない。
身体の調子もまあまあ良くはなったしね。
「うん、それじゃあ行こうかな」
「分かった、じゃあ案内するね!」
私はとりあえずみんなにはここにいてもらって妖精たちと共に行くことにした。
隠れてはいるがそこまで遠くないそうだ。
まあ戦場の影響を受ける範囲と考えてもそう遠くないのは確実だろう。
てくてくと軽く走って移動すること1時間ほど。
近くに擬態結界が張ってあって近寄っただけではただの荒野の一部だったが妖精に導かれるまま進んだら見た目の壁を貫通した。
そうして見えた向こう側の景色は泉だった。
荒野に池沼はそこそこ多いもののこんこんと水の湧き出る泉は初めて見た。
周囲には多数の草花に囲まれさらには建造物も見られる。
人の作る材料を妖精たちが組み上げて作った集落と言った様子で人が足場として乗ったり移動するには不便そうな配置が多く見られるしやたら草が多い。
そこそこ広い空間で何十もの妖精たちがそこかしこを飛び回っていた。
「ここが私たちの集落です!」
「みんなただいま! もう戦いは終わったよー!」
その声に一斉に妖精たちが詰め寄ってきた。
うわ、めっちゃいる!
「ど、どうも」
「おかえり!」
「戦いが終わったって!?」
「もう大丈夫なんじゃな……」
「この魔物はー?」
ざわざわと一斉に話し出す周囲の妖精たち。
数が多すぎて羽音すら騒がしく感じる。
「紹介するよ! この方が今回の騒動をおさめてくれたローズ!」
「ローズさんにはぜひ私たちの集落に来てほしくて、来てもらいました」
「おお!!」
「ええ、私たちほどじゃあないけれど小さい魔物が!?」
「見たことがない魔物だ……」
「ローズさんありがとう!」
「ありがとうございます! この集落は助かったも同然!」
あわわ。
妖精たちがガンガン話していて話すスキもない。
その後もいつものふたりが仕切ってくれるまではしばらく大量の言葉攻めにあい続けた……
なんとか妖精たちが私を解放してくれたその後。
改めてこの集落が困っていた点を聞けた。
「なんとかあの戦いが終わってくれた事はありがたいんだけれど……」
「この集落の泉はすっかり力をなくしたままだナ」
「泉?」
私が見たところ普通に水が湧き出ている泉だ。
「昔はもっと力が一緒に流れてきていたんだ」
「今のこの水は無味無臭……味気が無いんだよね」
「やはり戦いが終わるだけでは泉は元に戻ってくれませんか……
いえ、戦いが終わっただけでも良しとしないと」
私は話を聞きがてら準備をしておいた魔法を唱える。
一回使うのに数分かかるからその間は手持ち無沙汰だしね。
地魔法"ジオラークサーベイ"!
魔力の光……つまりエフェクトが地面へと染み込んで行きしばらくしたら返って来る。
見た目はとても地味な魔法だが効果はとても高い。
返ってくる光は地面から下のデータが山のように溢れていてまともに閲覧しようとしただけで頭が痛くなる。
(はいほーい、こういうの"わたし"好きだから任せてー)
あ、アインス起きてたんだ。
(うん、さっきね……ええと、ほいコレ!)
アインスが出してくれたデータは非常にシンプル化されていた。
これなら膨大なデータに殺されなくて済む。
この解析結果によると……
「今ちょっと調べたんですが、この泉の水の通る途中で異変があるみたいです。それをどうにかすれば行けるかもしれません」
「え!? さっきの魔法で調べたの!?」
「なんでも出来るんですね……それにしても解決出来るかもしれないって本当ですか? ぜひお願いします」
妖精たちも驚いているが私も驚いている。
こんなことがはっきり分かるとは。
アインス様々か。
空魔法"ファストトラベル"でやってきたのは戦場跡。
膨大な熱で覆われていたこの場所もさすがに冷めたらしく落ち着いている。
多数の爆発で抉られた跡だけがその戦いの凄惨さを物語った。
「やはり、ここが原因か……!?」
「でも一体どうしたら……」
「もう一度ここで調べてみるね」
私はこの場所でも再び"ジオラークサーベイ"を唱える。
光が染み込みそして帰ってくる。
(ほーい、うん、なんとかなりそう)
膨大なデータが僅かな時間で単純な答えのみになる。
この場所に起こったことは……
「ああ、なるほど……でもこれには……」
「何か分かったのですか?」
「うん、けれど協力者がいるかな」
妖精たちの期待を背に私は"以心伝心"で彼女に念話を飛ばした。
『……うん? ローズ?』
『うんいつもの私だよ、ユウレン』