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四百八十一生目 氷菓

 私とランムそれにサムラやイマと共に密林を移動する。

 この密林内で休める場所と言えば……


「おほおおぉ!! なんだこの建物は秘密基地!? いやっ! この佇まい、そうか! これは研究所、そうだな!」


「え、こんな大自然な研究所ってあるんですか?」


「ええと、観光向けではないので基本的に外に売り出してはいませんが、一応地図には載せてます」


 イマがおじさんらしく大はしゃぎしサムラは年齢よりもいくぶんか落ち着いて目の前に佇む光景を受け入れる。

 バランスが取れている……のかな。

 ランムは相変わらず鋭い視線で建物全体を俯瞰していた。


「……行きましょう。どのような研究をしているか、調査する必要があります」


「あー、それなんですが……思っているのとだいぶ違うと思いますよ?」


 みんなが首を捻る中歩みを進めた。










「アイスのために保冷温度をマイナス30度で保つための新構築は……」


「結局、精霊たちは浮かんでいるのか、飛んでいるのかという議論は……」


「ランマ界線の外周部にはやはりRX値が適用される事でローンズ論が……」


「フレイムボール、右回転と左回転の差異はなんなのか、一緒に研究しよう!」


 ちょっと研究内を巡っただけで聞こえてきた言葉がこれである。

 既にサムラとランムは著しくテンションが落ちていた。


「全体的に何を言っているかわからない……」


「最新兵器や……軍事開発は……」


「まあしていないことはないですが、ここじゃないうえ、している範囲は皇国と共有しているものですね。ここの研究はもっと、研究したくて研究しているようなものの集まりなので……」


「なんなんですかその非合理的な……」


 でも研究ってそういうものである。

 誰も聞いていない世の役に立つか知らないことをガンガン追求していくのだ。

 その結果何かがあったりするだけで。


 そして約1名だけ様子が違う。


「うひょおおお!! ここ、月組がなんか理由つけておさえれんかなあ!? わしがやりてえ、わしに研究させろい!」


 イマだ。

 大興奮で黒服に似合わず飛び跳ねている。

 喜んでくれるようでなによりだがあちこちに顔を突っ込んで邪魔をしないであげてほしい。


「駄目に決まってるよイマ。サムラもイマ抑えてくれ」


「いやあ、ああなったイマを抑えるのはちょっと、イヤだいぶ無理かな……」


「駄目ですよ、いや本当に! まだ表に出せないタイプの研究もあるらしいんですから!」


「というより、表に出しても理解が得られない研究の間違いじゃないかな……」


 まあ大半のニンゲンや魔物はバッタ魔物がジャンプしたさいに右脚と左脚どちらに力をこめて着地するかなんてどうでもいいんだけれど!

 研究ってそういうのをつきつめて膨大なデータにするものだから。

 研究は役立つから役立たないからで決まるものではないのだ。


 何がこの先結びつくかわからないから研究だ。

 とりあえずイマにはここへきた理由を思い出してもらおう。

 昼食だ。


「行きますよイマさーん! 食堂にー!」


「ぬおおおおっ! 夢の開発環境が! わしですら中々研究費用おりないのにー!」


「イマさんは危ないものばかり作るからですよ!」


 サムラに半ば引きずられるかたちで連行された……






 食堂は少し早いこともあって空いていた。

 本来月組のみなさまを大衆と一緒にして食べさせるのは失礼に値するから個室でと思ったのだが……


「わははは! そんなこと気にするやつが密林に突撃するかね!」


「人の気配があったほうが落ち着く」


「割とどこでも……なんならトイレでも……」


 とまあ全員淡々としていた。

 現場班なだけある。

 私は彼らをテキトウな席に座らせて食事を始めた。


 みんな同じ場所に固まるかと思いきや全然違う。

 サムラとイマは真ん中のほうで。

 ランムは角っこの席をとった。


 驚きはしたが特に問題はない。

 私はランムの隣を取ったら露骨にしかめっ面をされた。

 案内中なのにそこまで拒絶することある?


「おまたせしやしたー、うちで出せる中では一番いい定食でーす」


 無理を言って追加費用を払い作ってもらった豪華な定食。

 研究所で出される食事はそれすら研究されているもの。

 調理師っぽい格好をしている魔物たちも研究者。


 その中で安全……もとい研究者のなかで評判がよかったものを中心に出してもらった。

 謎の魚に謎のソースがかかった焼きもの。

 謎の和え物。

 謎のスープ。


 謎のゼリー状の何か。

 謎のパン。

 そして1番わかりやすいのは……


「これは、昨日の氷菓子!?」


「アイスです。ただここで出されるアイスや食べ物が何かまでは私には……」


 どうやらランムはアイスを気に入っていたらしく目を輝かせていた。

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