四百八十生目 影縫
サムラとイマがいる場所についた。
他の月組と同じく黒服で男性ふたり組。
「ううっげほ……」
「つきましたよ、治しますね」
光魔法"ヒーリング"でぐったりしているランムを起こす。
ランムも鍛えているから根本的には大丈夫だろう。
ただ……あんまり騎乗系に向いてなくて酔っただけで。
身体も固定してあったから傷1つない。
事実復活も早かった。
「……ハッ、サムラ、イマ、早くこちらへ!」
「オウカ様!?」
「た、助かりました! 今少々困ったことが起こっておりまして」
「知っているから早く!」
ふたりが駆け抜けたあとに続く足音。
虫らしくない踏み鳴らす音たちはその昆虫の姿と共に。
「あの虫普段はおとなしいのに、こんなに怒らすなんて……」
「ううん、何をしたんだ、サムラとイマは……」
全身をいかつい外骨格で覆って角を持つ虫。
……カブトムシだ。
サイズはもちろん見上げるほどに大きい。
カブトムシは私達を無視して突っ込んでこようとする。
このままでは怒りのあまり私達ごと跳ね飛ばすしサムラとイマが追いかけられるだろう。
よし……新ジャンルの魔法を試してみよう。
[シャドウステッチ 相手の影を射止めて影につらなる者の足を止める]
黒い光で出来た小さな針たちが生まれる。
それらは地面に潜り込み自由に動き回って……
カブトムシの影を縫い付けるように針とそこから伸びる糸が動く。
影魔法の足止め魔法。
まさしく影を地面にぬいつけただけだが……
カブトムシの足はビシッと地面に固まって動けなくなる。
基本的な科学的に言えば影は光エネルギーに当てられて物質の反対側に出来る光エネルギーが薄いだけの部分。
これがあろうとなかろうと大差ない。
しかし魔法科学的にはここに関係性を見出している。
つまり影があるからこそ肉体はあるのだと。
影が動かなければ肉体は動かず肉体が動かねば影は動かず。
影を操る魔法や能力も結果的に言ってしまえば光により影を生んで動かしているにすぎない。
私の魔力ならばしばらくは動けないだろう。
結局魔物じゃないし。
魔物は自身の中に行動力を持っているせいかあんまり龍穴のエネルギーに肉体が左右されないんだよね。
「よし、逃げましょう!」
「何!? 倒すのではないのですか!?」
「だから保護されてるんですって!」
私は踵を返して反対方向に走りサムラとイマに合流し安全地帯まで跳んだ……
空は飛ばない。
だって嫌だし……
「た、助かったっ……」
「ふはははは、ここは凄まじい! サンプルの宝庫だ! 惜しむらくは命がいくつあっても足りないだろうことだがな!」
「サムラ、イマ……注意書きだけ読んで侵入していたのか」
「駄目ですよ、基本的に密猟は禁じているんですから、今のような刺激も危険なことに繋がりかねませんからね」
「本当、身をしみて……」
木陰に寄り添い4名で話し合う。
危険なかおりのする黒服がイマ。
イマに振り回されて疲労困憊なのがサムラ。
黒服に身を包んでいるもののどことなく月組のエリートらしさがないふたりだった。
「それにしても、ひと目見てよくサムラとイマだとわかったね。面識はないと思っていましたが」
「確かに面識はないですが、月組のみなさまのことは昨日でだいたい把握させてもらったので……」
「なるほど、だから今日はどこへ言っても名前を呼ばれるわけだ。把握と周知が早いな」
「だからといって、誰もいないところへいかないと研究できないとか言って、密林へ潜り込むのは勘弁してくださいよイマさん、ぼくたち完全に死ぬところでしたよ。武器は旅亭に預けたままなんですから」
「うっかりしておったわ!」
月組のみんながやや情けない姿を見せているのは仕方ないところ。
あくまで目的が調査のため最低限の武器以外は置いていってもらっているのだ。
もし月組が本気を出せば簡単に都市を炎に沈められる……そんな噂もある。
真偽はわからないがとりあえず全員こんな密林で駆け回っていたのに擦り傷ひとつせず嬉々としていたりズンと落ち込んでいたりするので単なる無謀ものたちではない。
「とりあえず、完全なセーフティエリアまでいきましょう。そこまで行く間に、良い時間になると思うので」
「おお、すまんねローズオーラ!」
「一切済まないと思ってはなさそうですね……」
「ガハハハ! こうみえてわしは月組! 実際えらいからな!」
「はぁ……スミマセンローズオーラさん、苦労をかけます……」
「いえいえ」
イマが高らかに笑いサムラはペコペコと謝る。
ある意味長く組んだ二人組なんだろうなって安心感がある……




