四百七十七生目 改築
月組が探しているもの……か。
『とりあえず探られて困ることは無いとは思うけれど……』
『どうする? ちょっと脅して締め上げるか?』
『絶対止めてね。探られて困るもの……うーんまさかなあ』
確かにまったくないといえば嘘になる。
ただそれは皇国も承知済みのはず。
魔王だ。
現在はフォウとして暮らしている魔王。
それをアノニマルースで囲っているのは国たちのトップは周知の事実。
だとしたら魔王そのものもだけれどもしかして人類への敵意とか見られている?
うーんアノニマルースも一枚岩じゃなくて悪い奴らもいるからなあ。
とりあえずフォウは見つからないほうがいいかもしれない。
どう月組に取られるかが読めないからだ。
アノニマルース程度でも一枚岩に成り立たないのだから皇国全体でもきっととても意見が割れている。
あわよくば暗殺を……なんて考えられていたら最悪だし隠すのは最善だろう。
『引き続き見張っておきます』
『ありがとう、よろしく』
念話が途切れまた定時連絡待ちとなる。
その日の夜はだいたいそれの繰り返しで過ぎていった。
翌日。
合流したらツヤツヤしたランムさんになっていた。
温泉効果かな。
「温泉や食事、良かったですか?」
「まあ、想像よりは。なにより温泉にも生命の泉が使われる贅沢が味わえるとは思いませんでしたが」
「迷宮内の街はそういうこともできますから。昔から迷宮に長居すると瘴気で気がふれるなんていう考えはありましたが、科学的ではありませんでしたし」
「ううむ……確かに学者の中でも意見がわかれるところでしたが」
そうこう話しつつ観光案内ならぬ調査案内再開だ。
とにかく相手は私のことを聞きたがる。
多分このアノニマルースを立ち上げたメンバーのひとりだから。
それに自由という権利を持たされている……
国すらこえる権利に対してしっかり目を行き届けさせたいというのは間違いないだろう。
雑談すらも気をはらないと。
ランムがあるき出す事に合わせて私も歩みを進めた。
私を指定するあたり私も危険視されているうちのひとりなのだから使える気は全力で使っていこう。
「こ、この工事は……」
まさかたどり着く先が元スラム街になるとは。
ここではもちろん現在大型魔物たちが重機のごとく働いている。
高レベル魔物もいるね。
ニンゲンたちもあれこれ都指示を飛ばしたり道具で釘打ったりと働いているようだ。
「元は、難民街なんですよ。アノニマルース自体が流れ者の町ですが、ニンゲンたちが所属不明所持品ほぼなしで流れ込むこともあったんです。しかも魔物嫌いだったりすると色々手がつけられなかったのですが……このたび追加予算と難民支援援助が入り、難民たちを正式な住まいと職につけることができそうなんです一応、地元の皇国政府機関にはお知らせしているのですが、さすがに月組の方たちの分野ではないですからね……」
「まあ……それはそうだが……難民か……その、難民支援をした国は? おそらくそちらも報告は上がっているだろうけれど、直接聞きたくてな」
「最近新王になられた大河王国です。帝国の山向こうにある国ですね」
「大河王国……結構な遠距離ですが、よくぞここまで支援が……」
「細かいことは報告書にまとめてあるので、そちらを後でアノニマルース政治機関に問い合わせください」
ランムは何か考え込みながら手元のメモに筆記する。
そもそもメモを扱えるのがさすがだよなあ……
メモを扱う金があるなら木片で揃えて残ったお金を別に回してしまいたい。
「邪魔になるといけないから、次へいきながら話してください。なぜ難民を受け入れることにしたのですか?」
「えっ? まあアノニマルース的には難民を受け入れるのが当然、難民は命からがらなにかから逃げてきた相手なので、保護と犯罪の巣窟化しないように地位の向上確保や教育は必要不可欠だとしか……政治側もその考えのはずです」
「難民は国と国のやりとり問題です。勝手な入国保護は拉致にもとらえられかねません。皇国の理念とは違う行動は我が国の損害になりかねない」
まあ確かにわざわざここに流れつくあたり皇国は難民を犯罪者にする法律しかないのだろう。
ランムの表情は鋭い目のままかわりはない。
「まあ、だからこそ申請は出したのですし……それに、彼らは既に逃れてきた国を特定して、話はつけてありますから。だから難民支援援助が入ったんですから」
「だから支援が……? ま、まさか、大河王国!? 大河王国民なの? それで直接話をって……一体このアノニマルースの力とは……」
「迷宮内にある関係で自治体になってるだけの小さな町です」
ランムの表情が鋭くなり頭を指で叩きメモへ向かった。




