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四百七十三生目 問詰

 鳥車がアノニマルースの中まで入ってくる。

 皇族御用達であることを表す渋い黄色。

 深みのある色がシンプルな柄なのに明らかに高級感が違う。


 そして駐車スペースに止まれば中からは高貴な感じ……とは程遠い。

 黒服に身を包んだエリート感溢れる方たちが出てきた。

 威圧がすごい。


 彼らが皇族代理の団体……


「月組……」


 正確には4つ組がある。

 そのうちの月組はこういった調査や捜査それに代理としての指示などに使われている。

 すごく動く側の部隊ではある。


 詳しい内部事情は秘密なので私達も良くはわからないが……

 月組にはとある噂が。


「月組が動けば、不幸がやってくる、というのは本当なんですかね?」


「さあ、だいぶオカルトだとは思うけれど……」


 問題はオカルトがこの世界では強い効力を持つということ。

 ドラーグ1%の姿と共に小声で話す。

 私達は門の影に隠れ待機していた。


 案内係の者がこちらへと誘導しているのが見える。

 普段の相手とまったく違う威圧感にカチコチだ。

 もうちょっと耐えて!


「それじゃあ、行ってきます」


「うん、連絡よろしく」


 ドラーグは自身の身体を影に溶け込ませる。

 各地に移動してドラーグの包囲網が出来上がっているわけだ。

 これで彼らがどう動いても把握できる。


 なにせ人数がすごい。

 この人数が同じ場所を移動するわけがないのだ。

 各地で行き届いたサービスを今日くらいできなければ普段だってたかがしれているだろう。


 一応信頼はしているもののだいぶ数が多くなったアノニマルースは既に個々人に把握できる範囲を大きくこえている。

 それに各々生活もしているし血の気が多い者も多い。

 オリジナルの文化が数多くあるのは魅力だが月組を巻き込むと困るものもある。


 彼らの視察目的がなんであれ良い印象を持って帰ってもらわねば。


 そうこうしている間に私や案内係の元に黒服集団がやってくる。

 主な政治メンバーは月組が後で行く会食のところで待機していた。

 私はなんだか指名で前に出ないといけないらしい。


「こんにちは、初めまして月組のみなさん」


 私は前に出て皇国の礼儀作法にのっとり礼をする。

 鋭い目をしたひとりの女性が前に出てくる。

 すごいな……彼女おそらく普段からかなり鍛えている。


 そして何らかのスキルか装飾品で自身のトランス先を隠している。

 ニンゲンは多数のトランス先があるもののやがてそれらは特化という形に現れていく。

 わかる者が見れば相手がどういうタイプかわかるだろう。


 もちろん公的に仕事場ゆえに全員共通の規格にするという意図はあるかもしれない。

 ただそれを含めて考えても……

 きっと彼らは対人に特化している。


「どうも。わたしは皇族代理政府のひとつ、月組のひとり、オウカ ランム。全員個別で名刺を渡すのも如何なものかと思い、全員分の名簿を作りました。本日はよろしくお願いします」


「は、はい」


 名簿の紙を渡されただけなのに圧がすごい。

 トゲなしイバラを伸ばしてしっかり両手……両イバラ? で受け取って。

 ずらりと並ぶ名簿を見る。


 うん。当たり前だけど顔と名前が一致しないと意味はないね。

 ただこれで点呼じみたことはできるようになった。

 誰が来て誰がいないかのチェックにはなるだろう。


『司令班、名簿をゲットしました。記憶を再現したのを念話に置いておくので、役立てて』


『了解、とにかく模写します』


 私の記憶を送っておく。

 これで今回の司令会議を通して有効活用されるだろう。

 さて私は……うん?


 なぜだかしらないけれどランムさんの目つきが鋭くなったような。

 こういうとき"見透す目"や"観察"を使わないように心がけている。

 味方に使うのはマナー違反な部分あるよね……


「皆様方、長旅でお疲れでしょうから、まずは御予約している宿泊所へ案内しますー」


「ああ、活動拠点として使わせてもらう」


 案内係のものが動き出し一斉に黒服たちが動き出す。

 なんだかシュールな光景だ……

 私も共に歩くことにした。


 調査目的すら私達に知らされていないからなんとも気味悪さがあるよね。

 わかっていれば少しはやりやすいんだけれど……


「さて、わざわざあなたも指定させてもらったのは他でもない。たずねたいことが複数ある。道すがら聞いても良いか」


「どうぞ」


 わざわざ直接聞くってことはこちらの反応を見るつもりか……

 ファイトだ私。

 普段そこそこ訓練はしているからこういうこと!


「まず、アノニマルースの成り立ちについて――」


 そこから宿までは質問責めにあった。

 なんだか聞かれているというより問い詰められているかのようだった……

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