四百七十二生目 皇国
キサラギたちと共に工事現場を歩く。
「リュウに脚を気に入ってもらえてよかったよ」
「ワタクシ、リュウのことすごく嫌なやつだと思ったし、今でも思っているんです。けれど……あの経緯を見たとき、なんとも言えなくなっちゃって……あのとき、ワタクシは思いました。似たような経緯でも、こんなにも大きく変わっちゃうんだって」
同じくゴミにより潰された経緯がある。
しかしリュウはあくまでその身体を乗っ取った形に近い。
記憶はあるらしいが感覚はだいぶ違うだろう。
それになにより……
「リュウは、幸せではなかったみたいだからね……」
「幸福って、何なんでしょうね。今では私、あのゴミ山に帰りたいとは思いませんから……」
「幸福か、それを考え続けるのがオレの役割にもなるんだろうな」
難民の彼らも不幸ではないものも多かっただろう。
なんなら今かき乱されて不幸に感じるものもいるだろう。
けれど……彼らが同じ場所にいつづけるには進むしか無い。
その手助けはしないと。
「……そうだ、キサラギ。カルトス団を知らない?」
「カルトス団? 知ってはいるがそれがどうした?」
「今回、途中まではすごくカルトス団の介入があったんだよ。最後は王宮内だから仕方ないけれど、その後もなんら動きを見せないの、おかしいと思って」
「それじゃあ、なにか? もしやまだ……裏で糸を引くやつがいると」
どこか不穏な風を残し次の場へと歩みを進めていく……
「どんな商売も引き際化が肝心さね。またアイツラに潰されたのは腹がたつけれどね」
「変身薬もいい感じで捌けていて、もう少しで大争いになったところだったのに……私達の邪魔ばかり!」
「ウウ……」
「リーダー、ウォール、次あいつらとぶつかったら……確実に潰すよ!」
「イエッサー!」
「グオオオ!」
時は義足を任せている間に戻る。
私はアノニマルースにて報告書を受け取っていた。
「やったー! 朱の大地探索に戻れる!」
朱の大地探索が封じられていたのが解禁された。
朱の大地から放たれた暗部がらみで私は進めなかったが……
アノニマルースと向こう側のゴタゴタが一旦収まったらしい。
まあ予想通りトカゲの尻尾切りが行われた。
無関係を装うならこちらも無関係ということで。
深いところまで潜り込んでいこうと思う。
私が探索しない間にもみんなは探索していた。
草原の国はもう良いので私はさらに南下……
煉民主国へ向かう。
今の所ざっくりした調査によりここが敵軍団の怪しいところ。
各地で小さいのは潰しているものの本拠地がまだ。
本拠地はなかなか顔を出さないものの特定が進んできた。
それは煉民主国に不可解な動きが集まっているということ。
カルトス団やピヤア団は各国で呼び名が違い各々が暴れているだけで実態はほぼ同じ。
逆に言えばそれぞれの大陸ででかい活動拠点がある。
つまりはピヤア団の活動拠点。
ぜひとも見つけて潰しておきたいところだ。
「あれ、この紙は……」
次の紙は質感から違った。
触った瞬間にわかるとても良い紙。
だいたいこういうのにはロクなことは書いていない。
いかにもメモ書きを手早く渡された木片のほうが良いこと書いてある。
とても正式な書類でなければいけないことが書かれているわけで。
「ええと……ええっ?」
そこに書いてあったもの。
それは……視察。
アノニマルースが皇国から正式な視察を受けるということだ。
今までもちょくちょく見には来ていたがいわゆる下の者がちまちまと来てこちらとやり取りする程度だった。
しかし今回はかなりのおえらいさんが来るらしい。
困った……しかも私を必要としていた。
断る権利はあるものの断るには大変な苦労が必要……というより実質無理。
つまり応対しなくては。
私は他にも大事な書類が無いかチェックして準備を整えよう。
当日。
私は正装に身を包み皇国の方たちを待つ。
あの紙には詳しい内容は書かれていなかった。
ここは特別自治区みたいな扱いだがあくまで皇国内。
大河王国との感覚とはまた変わる。
でもまあ王様達とやり取りしたことは多いし皇国だからって必要以上にビビらないようにしないと。
私は尾で自身の身体をはたく。
気合一発!
……おっと念話。
『来ました、今案内の者が中に入れています』
『結局、どの立場の者が来るんだろう』
『……え!? な、なるほど……今情報が入りました』
念話が乱れるほどに何かが起こったらしい。
思わず私も感化され固唾をのむ。
『一体誰が……?』
『皇王の代理たち……皇国のナンバー2メンバーです』
『うえ!?』
思わず色々噴き出すかと思った。




