四百七十一生目 難民
神力のほんの一部が国中に戻る。
大河に流れ込む水は大事だ。
しかしそこから各地に小さな川を経由して全ての大地を癒やすことも大事なのだ。
「白き竜よ、その脚、気に入られましたか?」
「ああ。そうだな、なんというか……確かに余は足りないものを得て充実した気分だ。しかし、なんと表現すればいいか……より体のほうが喜んでいる。もっと原始的な、人間の心がな」
「人の……」
それってリュウがリュウになる前の単なる人間側のことと関係があるのだろうか。
「じゃあ、今後ともせめて国を支える奴になれよ」
「フン、貴様こそ、余の力があっても崩れるような王になるなよ」
その答えは明確にされぬままその場は解散となった。
神々たちの隠れ家。
私はそこに訪れていた。
ただここが使われるのは最後になるだろう。
「ありがとう、新しき神。ありがとう、小さき神」
「声、どこから……うわあ!? 大きい!?」
前まで概念を抽象化したような姿だった神たち。
しかし今遥か見上げるほどにそれぞれ大きくそして神々らしく複雑で情報量の多そうな肉体を持っていた。
特に象の神。
それは巨神といっても差し支えない。
半身半人ではあったらしいけれどここまで大きくなる!?
「これが、我々の本来あるべき姿……各地に散り、国を癒やす」
「気を付けて。リュウは、例の神はまだいる。油断したら、国の形を留めておくことすら難しくなるかもしれない」
「もちろん。二度は後れをとらず、二度も国と国が揉め合わぬように、我々が祈ろう。二度と終わらぬように」
神々たちがこの空間から去っていく。
神の祈りは生き物たちヘの力。
土地に生き物に還元されていくだろう。
「そして、ローズオーラ、我らの、国の救世主にも感謝を」
巨象神が象らしい高い音で吠える。
すると凄まじいエネルギーが光として私の方へと飛んできて……
「うわっ!?」
まるで吸い込まれるように私の身体へ飛んでくる!
全身が痺れるほどの感覚。
痛みを感じそうなほどに震えが来たあとに。
骨身に沁みるような力の余韻が残って終わった。
代わりに溢れてきたのは新たなる力。
力が溢れてくる!
[巨獣再臨 強敵相手に致命打を受けたさい、カウンターとして発動。自身を巨大化させ全能力向上]
なにかとんでもないものが来た!?
シンプルに性能が良い。
「ありがとうございま……あっ」
お礼を言おうとしてその姿は既になく。
世界が崩壊していき白く染まる。
『我らの心は、汝と共に』
どこからかそのような声が聴こえた。
アノニマルース。
そこに私は戻りクオーツと共に外を歩いていた。
「うーん、やっぱり平和は良いですねえ」
「すごいお年寄りみたいなセリフだね……」
「なにせ、大河王国では大変な目にあいましたから……色々経験してワタクシわかりました。やっぱりアノニマルースが1番です。ゴーレムのワタクシでも、ちゃんと扱ってくれるし、心配もしてくれます。多分それが、ワタクシが『資材』じゃなくて済むことなんだと思いました。カードも楽しいですしね!」
「うん……うん。すごく良いと思うよ、その答え」
私はローズクオーツが出した答えが嬉しくなった。
まだ途中な気もするけれど今出せる精一杯な答えな気がして。
そうこう言っている間に目的地へついた。
ここは郊外。
普段は寂れ不法占拠するニンゲンたちが溢れている。
……はずだったのだが。
「うおおおっ、なんだあ!?」
「はーい、どいてどいてー! さる国からの支援でここのみんなの正式なアノニマルース市民指定と、援助、建設と仕事斡旋あるよー!」
……今や大型魔物が荷物を運び出入りしスケルトンたちが組み立てする大騒動となっていた。
大河王国難民支援が正式に決まったのだ。
彼らは大河王国民でありながらアノニマルースで保護される。
仮組みの領地を元にどんどん建設していく。
さらにかれらにも資材を手渡し自分たちで建て直しをさせる。
まだ現場はてんやわんやだが徐々に改善していくだろう。
「まったく、難民情報を意図的に伏せていた前王は本当に保身しか考えていなかった」
「それはそう……え!? キサラギさんがどうしてここに!?」
そして背後から近づいてきたひとり。
それは普段着を着ているキサラギだった。
王様がほっつき歩いているが誰も気づいてはいない。
「支援の話、のってくれてありがとうね」
「そもそも難民を出すほうが悪いからな。オレもこのあと、新王として顔見せするつもりだ。とにかく顔を売っていかないとな」
新しい王様はみんなに優しい。
そういうことはアピール大事だからね。




