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四百六十六生目 権威

 英語に……反応した!

 キサラギは私の方にそっと歩み寄って。


「またあとでな」


 英語でそう回答する。


「今ふたりが言ったことって? 何語ですか?」


「気にするな、遠方の土地での言葉だ。オレは王になるため、各国の言葉を学んでいるからな」


「そ、そうか?」


 ラーガ王子はいまいち納得しきれないようだが話は続く。

 そりゃラーガ王子たちも主要な国はだいたい抑えているだろう。

 それなのにわからなければ渋い顔になる。


「さて、合議制の良さはともかくとして、合議制自体の弱点や急に変えることでついていけない人たちの多さが予測される。もちろん手はうってはいるもののそもそも変化の速度には限度がある。順番にやらせてもらうぞ」


「当たり前だ、こんなでかすぎる変更、すぐにできるわけがない!」


「オレはこの国を変えるしかないとは思っているが、その際に国民を切り捨てるようでは意味がないからな。クソみたいな階級制度は早々に直さねば国際社会に申し訳がつかんしな。一番は資材階級だ。そこは神と同意見になるな。やれるのならば、明日からでもなくしたいが……」


「ムリでしょうね。国民たちは従うでしょうが、それにより仕事の作りが崩壊して露頭に迷ったり、そもそも資材階級たちの変更が効くようなつくりをしていないため、かれらが全員野垂れ死ぬだけですわね」


「はあ、そこらへんの細かい設備が行き届くまではオレも座って国会開始承認するだけにはいかんだろうな……あんまり長くやっていたくはないんだが」


 キサラギは肩をすくめ椅子に座る。

 正直彼が先進的な考えを持っているとして少なくともアール組にそれらを伝えきるまではかかりそうだ。

 なにせこのまま彼らに政治を任せてもやはり根本的には……生まれ階級社会は直らないし。


「私も、困ったら協力させてください。少しは手伝えると思います。広い意見が必要なようですから」


「政治はともかくとして、即位式ですわね、目下の案件は」


「え、政治よりなんとか式のほうが優先なんですか?」


 ローズクオーツが質問する。

 それはごもっともな話だ。

 今王が変わったという話をするほうがややこしいのではないだろうか……


「フム、もともと(まつりごと)をしない王がやることと言えば外交と内交で、即位式はやぶさかではないが……」


「なんだ、まだここにいたのか? 即位式はどうした」


 扉の向こうから金属が回転するような音。

 フカが車椅子をもって現れた。

 乗っているのはもちろんリュウ。


 リュウは先程のことがあったのに平然としている。

 ちなみに車椅子もただの車椅子ではない。

 玉座車椅子だ。

 重そう……


「即位式ってそんなに急がなくちゃいけないのか?」


「……そうか、まさかこの場にいる誰も知らんのか。こまめな顔出しがなくなった時点で覚悟はしていたが、知識の伝達が途絶えたのは純粋に悲しいものだな。権威の力について、解説しよう」


「白き竜、それなら私が……」


「アサイ、お前ではどうしても細部が美しくなりすぎる。権威の力への揺らぎがなさすぎてしまう。余の力は偉大だが、偉大ゆえに知っておかねばならない前提が有るのだ」


「わかりました……」


 さらに背後から改めてきたアサイだが言われて下がる。

 アサイの絵も多分だいぶ過去が美化されているんだろうな……

 なんとなくしまってほしい理由がわかった気がする。


「権威の力……あればいいってものじゃあないんですか?」


「権威が万能の力だとでも思ってるのか? ゴーレムよ。権威とは『自分に従うものを従わせる力』だ。だから民にお前が従うものだと知らしめなければならない」


「自分に従うものを……? だったら、従うものなんだか、最初から従っているのでは?」


「いや、それは違いますね」


 私の言葉にアール・グレイくんが言葉を上げる。


「例えば、貴族と召使いがいて、その貴族が召使いに屋敷の業務を依頼します。この場合、どうなりますか?」


「それは、まあ普通に受けるでしょうね」


「ええ。では次に、貴族が召使いに王様の暗殺を命じました。この場合は?」


「え、それは……いろんな観点からして断るのでは。そもそも貴族は王に従って……あっ、なるほど」


「今グレイが言ったとおりだな。どの世も、根本に様々な矛盾をはらんでいる。つまり権威の力というのは……」


「ああ。今の王が誰なのかを知らしめるだけで各地の暴動は収まっていくぞ……貴様の力量をこえない限りな、キサラギとやら。王として戦えるのか、見せてもらうぞ」


 リュウがキサラギをにらみつけるが不遜な顔でキサラギは返した。

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