四百六十五生目 正体
義足を贈ることになった。
まだ細かいことは見当がついていないけれど。
まず脚を測らないと……
『試合中のデータ、記録済み。本の稼働状況もいつでも振り返り可能』
『あ! そうか、これであの本の解析が……じゃない、映像データから割り出せる! 多分ホルヴィロスなら詳しいはず……義足開発は九尾博士にヒントをもらおう』
『肯定。それがベター』
ノーツが記録しておいてよかった。
アサイは再三頼みつつ去る。
そのあとはしばらく雑談をすることとなった。
ニンゲン組はほぼぐったりしているしドラーグは足が痛むらしく治療していた。
大一番は乗り切ったからね……
ほんと一時期はどうなることかと。
みんな口々に怒りや不平不満を話す。
ある意味王が王であったころよりもずっと騙し合いの空気感がなくなっていた。
これも効果なのだろうか。
ちなみに王自体はラーガが担いで持ってきた。
このあと治療にかけるそうだが……
こういうダメージの負い方は治るかどうか。
そして話題は自然に先程のことへと移行していく。
「そういえば、アサイとやらが来る前に、キサラギが何か言いかけていなかったか?」
「おっと。良い所で中断されていたな。では発表しよう。オレが王になるさいに、前の王と変える部分を」
キサラギが立ち上がり注目を集める。
そのままカツカツと音を鳴らしみんなの視線が集まりやすい前へ出た。
キサラギがその小さい背を大きく見せるように両腕を高く構える。
「正直、私やラーガはまだリュウの余韻危険性があるから、仕方なく渡しただけですのよ。くだらないことをやったら失墜させにかかるので、心して発言なさい」
「そうか、これからお前を王と呼び、知らしめねばならんのか。あの場を乗り切るためとは言え、大変なことになってしまったな」
「アール・キサラギ……いや、バール・キサラギ。この国は今本当に疲弊している。疲弊に疲弊を重ねて神の力とやらでギリギリ保っているんだ。早くアイツがいなくなったり暴走しても良いように建て直さなくちゃいけない。普段のノリで振り回しまくるのだけはやめてくれよ」
「お前らもう少し新王への期待とかないのか」
キサラギがツッコミを入れるものの全員ジト目で返すのみ。
キサラギは肩をすくめた。
私達はよくキサラギのことがわからないけれど王位継承権を持っていた組からのあつかいなこんな感じらしい。
「なんというか、大変そうですね」
「キサラギさんのこと良くは知りませんからなんとも言えないけれど、成り行き、とは言え国を任されるのは大変でしょう……」
「フハハッ、そこに関しては問題ない国賓組。オレは事前に王になるための計画を組んでいた。ま、多少段階が3つほど飛んだがよかろう」
「また言ってる……」
キサラギが本気なのかどうなのかがわからないけれど考え自体は前からあるらしい。
神威の影響が多少有る分単なるニンゲンだったころと感覚が変わるかもしれない。
私の鼻でも今の所そこにあるというのがわかるだけで手やおぞましさなどは見当たらない。
「さて、オレは王になってやりたいことはまず……」
一泊おいて。
「オレは、政をしない! 王は君臨すれども統治せず、これから合議制を取り入れる!!」
「「は!?」」
「「え!?」」
全員が驚愕の声をあげる。
あ。ローズクオーツはピンときてないや。
「トップ個人や狭い範囲に政治なんてやらせるから、止められない、政治が腐る。だがこの国は神の権威によって成り立っている。神や王の名の下政治をするのはよくあることだし、システム上良く出来てはいると思うがこの国はごく一部に政治を任せっぱなしの古臭いシステムだ。例えご立派な神の力があっても、いつかは破綻する。全員が政治に参加し、代表格たるものたちが国の会合で政治をする。多くの人間が携わるからバカがついても国を回せるシステム、それが封建主義を終えて合議制になるということだ」
「バカな! そんなシステム、危険すぎるぞ!」
「王の責務はどうなってるんですの!?」
「またわけのわからないことを言い出したよ……」
「キミって……」
アール組が口々に思いつく限りの反論を並べていく。
ただ私はその間別のことを考えていた。
あの黒い瞳は『知っている目』をしている。
いかにもそんな場所を見て聞いて……そしてそこで生きていたかのような。
もしや彼は……あんまり確証はないけれど。
「わかった、わかった。王にそれだけ口ごたえできるあたりお前達も合議制の素晴らしさを理解しているようだな」
「「なんでそうなる!」」
「ねえ、キサラギ。キミ、もしかして前世がある?」
私は彼に色々と考えて刺さりやすいだろう英語でさらりと尋ねる。
キサラギが息を飲んだような顔をしたあとニヤリと笑顔になった。




