四百六十四生目 過去
あ……これって。
ドラーグが食べていたゼリー状の食べ物だ。
むぐ……もぐ……こっこれって!
たくさんの素材を長い時間かけて煮込み丹念に処理したあと透過するまで不純物を取り除き!
よく冷やしたものをコラーゲン系のもので固めて!
水分を食感を損なわないギリギリまで抜いた砂糖ではない甘みの食品!
食べるスープって言われるやつだろうか。
魔法処理も何段階かしているかも。
とにかくうまい。
「白き竜は、それはそれは勤勉家です。あの義足代わりの足杖も、自身のお身体に誰も触れられないゆえに、自分で学び採寸し安易とはいえ作り上げたものだそうです。言葉で聞く分には、白き竜の御威光に心を焼かれずに済みますから」
「見て気持ちが悪くなるやつだな」
「ただ、故に不便も多いのです。日常生活を送るのにも人は多くのふれあいが必要ですが、普段白き竜は触れてしまえばその御威光に身を焼かれてしまうため、あのお姿でも殆ど身の回りを御自身でこなしされるのです。それゆえ、一度聞いたことが有るのです。白き竜が、何故そのようなお身体として苦労し、今ここに居られるのか。わたしは詩と絵がかなり、そう、とても出来るため、白き竜の話を描けないかと思ったのです」
「そういえば、歌い聞かせしてくれましたねー」
「これが、その流れを表した絵です。普段はしまっているのですが……」
アサイが大きな絵にかかった布を取り払う。
そこには時系列順に進行していく物語がひとつなぎの大河として描かれた大作だった。
「ほぅ、女、まさか師はルカニか」
「え? ええ、正確には、母です」
「なるほど……ルカニの絵は王宮でもめったに手にはいらん、名は売れてはいないが現物は国宝級の扱いを受けるというが……なるほど。上手いと自負するだけ有る。ルカニ流の意図を汲み取りつつ、自分なりに昇華させてあるな」
「ありがとうございます。そんなふうに褒めていただけるとは思っていなかったのですが……とにかく説明していきますね」
アサイは立ち上がり絵の端に立つ。
指し示したのは……
「まず、白き竜ではない、ただの人から物語は始まります。まだ国が1つにまとまっていないころ、両腕の無い子がいました。母を無くせば先天的に腕のない子は行き場を無くします」
ここらへんはアノニマルースや前世の仕組み的から見ればどうしても遅れているように思えるが……
母親が生きている間は保護されるだけ最低限の仕組みはあったのかな。
それはもう世界的には少しずつ改善するしかないだろう。
アサイは少しずつ手を進めていく。
腕のない子供と有る子供たちがゴミ捨場らしきところで漁り暮らし……
しかし腕の無い子供はそのあと。
「その子供は、ゴミ捨て場などで漁り、乞食をし、子供たち集団で暮らしていました。しかし、弱い腕の無い子はその集団でもいじめのような扱いを受けます。それでも、孤独だと3日も生きられない可能性があり、所属するしかなかったとか。ただ、やはり腕の無い子は窮地に陥ります。ゴミ捨て場の窪みに嵌まり、片足を潰してしまうのです。そんな彼を待っていたのは慰めの言葉ではなく、子供特有の純粋な誹謗中傷でした」
絵が禍々しい邪気に包まれる場面を描く。
四肢のうち3つをなくした姿だ。
「彼は心身ともに限度をこえたところに、追撃を喰らいました。たやすく人は壊れ、同時に常軌を逸した呪いを放ちます。所詮はよわい者の、無力な呪い。しかし、白き竜は魂の叫びに惹かれます。それもまた、浄化すべきものですから」
白い竜の魂が男の子の魂を取り込む。
そして肉体に降り立ち……
赤と黒が渦巻く絵に怖気がたつ。
「白き竜は人の肉体に降り立つことで神として成立しました。白き竜は身体の主だった男の子が持つ記憶を元に、穢れた魂を喰い浄化していきます。もはや、その身体は人を大きく超え、白き竜そのものなのですから」
そして最後の端。
黒い怨嗟すらも清め歩く尾と角のある両腕と左足のない少年。
彼が絵の外へむかう所で終わっている。
「ここからが神話の始まり、つまり序幕だったのですが、後の絵は今回関係ないので割愛させてもらいます。ここからが長くとても魅力的なのですけれどね。白き竜はこの絵に関する内容、つまり過去はあまり自身の目に止めたくないようで、普段は格納してあるんです。みなさんに見せたのは内緒にしていてください」
「ふうむ……信憑性はともかくとして、今の話からすれば、足だけは後天的に失ったものなのか」
「はい。白き竜に本物の義足があれば、もう少しは楽ができるはずなんです。この部屋の外にいるゴーレムが作れる技術があればきっと……不躾な願いですが、どうかお願いします!」
アサイが頼み込む。
ノーツの技術……?
"ゲートキーパー"で義足をつくりプレゼントして喜ばれ解決できる……のだろうか?




