四百六十一生目 不敗
祖銀は冷静にリュウのほうを見つめる。
「もはや貴方の負けです。貴方は、人の策に負け、人に見放され、人にシステムとしてしか求められなくなった哀れな神……そこから改善するでもなく、考えを変えるでもなく、癇癪を起こして万物の権利を奪おうとする。そんな王がたどる先は1つ。これが見えますか」
「何!? 何が貴様らにわか……あっ」
祖銀が空中に何やらウインドウと文字列を浮かび上がらせる。
あれって一体……
向こう側を向いているせいでうまく読み取れない。
リュウは明らかに動揺している。
祖銀が文字を見せるだけだなんてこんなに揺れ動くだなんて魔法文様か何かだろうか。
「良いんですか? そちらが神の力を存分に振るい、人々の願いを脅かすのであれば、こちらとて手段の是非を選ぶことはやぶさかではありませんが」
「やめろ! 錫蜥蜴の分神体がここに来た時点で最悪だというのに、朱蜥蜴への【手紙】だと!? 巫山戯るのも大概にしろ! 余をなんだと思っている、余は国ぞ、国の柱そのものだ。余が滅びれば国は――」
「そう、あなたはそればかりです。自分が滅びればあれが、それがとあらゆることを人質にしていく。その根はただ死にたくないというものだけ。国は体裁ではありません、人です。貴方が全ての責任を取らず、責任を押し付け、自身の思うように弄ぶのであれば、それは小さな神話時代の再現でしかありません。貴方こそが最も醜悪な顔を晒す神でしかないのです」
リュウは言葉が乱れ叫ぶ。
これは本気で嫌がっているなあ……
というかあれ朱竜への連絡だったんだ。
多分まだ未送信。
リュウは嫌な汗を顔中にかき祖銀から目をそらせないでいる。
「屑蜥蜴め、貴様らがなんと言おうと――」
「ワタクシをその腕で掴みかかってみますか? それとも別の攻撃手段を? どうぞ。分神体にうさばらししている間に、物事を進めさせてもらいますが」
「――余は、余は……いや、蜥蜴たちがこの国を攻め滅ぼそうというのならば、余は歯向かうぞ。それが国の意思になるのだから」
「はあ、ワタクシからの言葉では通じる限度がありますね。ローズオーラさん、彼に何か言うことはありますか?」
「そうですね……」
結構難しいタイミングで振られたなあ。
「私としては、そもそも誰も死なないで解決できるならば、それが1番だと思っているんです。リュウの力は救うことも多いかもしれないけれど、それにより国にガタがくるほど詰まってしまっているのも事実。キミが自分を守ろうとするように、みんながみんな、それぞれを守ろうとする。ひとつの方向だけじゃなくて、みんなでやっていくことは、そんなに難しいんですか」
「黙れ、蒼竜の使者。貴様の放言を聴くだけで目眩がする。そんな夢世迷言、多くのものがはいてきて露と消え去った。死を求めぬものが最も流すのは血だ。やがて皆で倒れるのみ」
「でも、私はその先にみんなが立って笑い会える世界があるって、知っている。信じている。この国は、人が、生き物が、権利すらなかなか持てない犠牲の多い国だから。それを力で抑えつけている状況が良いと思わない。わるければ怒られる、それができなければ国なんて儚いものだから」
私はいまできる範囲で言葉を作った。
私達の群れを……アノニマルースを否定されるわけにはいかない。
それがいまどれだけ小さくとも未来につながることを私は前世の知識で知っている。
リュウの顔がどんどん険しくなっていく。
それもそうだ。
意見が真っ向からぶつかって譲る気は互いに無いのだから。
「夢しかわからん愚民では話にならん。そもそもここは蒼蜥蜴のエリア、朱蜥蜴が来るはずがない。そんな脅しで余は謀反に屈することはない!」
「いいえ、私がここに来た理由の1つに、貴方が昔朱竜から聞いた、本当に嫌だったやつという神に間違いないか、見に来たんです。世界のどこにでもわいた瞬間に見つけて燃やすから教えろと息巻いてましたよ。蒼竜の地域に出るのは考えましたね。ここなら、ほぼバレることはない」
「何!? 余が朱蜥蜴に何をしたというんだ!?」
「さあ、本人に聞いてみますか?」
祖銀が表情を変えず送信しようと身構える。
あの朱竜にマークされるって一体何をしたんだ……
リュウは途端に周囲の手たちが水へと変換され落ちていく。
「ま……待て。話せばわかる。本当に利点はないぞ。朱竜なんて呼んだら国がめちゃくちゃになる」
「ふふ、かかりましたね」
「……な!?」
突如リュウがなにもない背後を見回しだしせわしなくまたこちらを向く。
しかしどこか別の何かを見つめている……?
「探しても、まだあなたは朱竜の不敗概念射程内におさまっただけ。本人はいません。あなたが強烈に朱竜を意識し、敗北や死をイメージするほどに強烈な作用を働く……つまり、畏れ。場所はわからないでしょうが、貴方はもう、朱竜の監視下にいるも同然。こんな文面がなくとも、貴方が貴方自身の行動で朱竜を強くイメージするような行為をしてしまえば、いずれ貴方の元に来るでしょう」
なにそれこわい。




