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四百五十九生目 演技

 フレイ王女が無事蘇生出来たのを見た。

 私とちらり目があって意図的に逸らされた。

 ……なるほど作戦が伝わっているのなら心強い。


「これは初めまして、いえ、2度め、とうかがっております。挨拶をしても?」


「構わぬ」


「では……」


 そこからは貴族流の長い挨拶をしていた。

 フレイ王女はさっきまでの場に漂っていた空気をあえて一蹴し社交場として場をなり立てる。

 そしてしぐさのひとつひとつが……すごい。


 洗礼され尽くしていると言えばいいのだろうか。

 声の鳴り方ひとつ。

 指のしなやかさひとつとっても見るものを引きつける。


 もちろんスキルも込められているだろうけれどそれらを駆使してこんなにも見せられるとは思わなかった。

 挨拶だけで演劇を見て感動したようだ。

 念話の盗聴されていなければ騙されていた。


「素晴らしい。よくぞここまで成長したものだ。前見た時は赤子だったが、よくぞここまで立派に育ったものだ。オマエの親は汚泥に沈みきったが、つまるところオマエはその上に咲く蓮の華か。余にとってオマエらの成長を見るのは実に楽しみなことだ。故に問おう、ここまでこさせられた意味を知っているか?」


「存じては、おります。ただ少し、ご考慮いただきたいことがあるのです」


 フレイ王女の瞳が揺れる。

 あれを天性でやっているとしたら確かにものすごく強いしものすごく揉めてるんだろうな……

 リュウにどこまで通じているかがわからないが少なくとも即愚痴をたらされたりはしないようだ。


「申してみよ」


「はい。わたくし、白き竜のご加護を得られることそのものは、とてもありがたく存じます。しかし、同時に白き竜の加護は肉体と精神に過剰な負担をかけるもの。我が父君も、そこで冬の枯れ木みたくなってしまっているように、多大な負担がかかります。元は人の身に余る光栄、健全ならともかく、わたくしは今、ここに来るまでで全体力を消耗しきりました。笑顔は最後の防波堤です」


 多分言っていることそのものは事実だ。

 見せないようにはしてにこりと国でも落としそうな笑顔をするがにおいは疲労が濃くなっている。

 これが蘇生の代償衰弱……


「と、すると。蘇生による弱りが原因か。しかし、国の一大事ゆえあまり猶予がない。フレイが耐えきれるか不安なのはわかるが、国のために身を捧げる覚悟が欲しい」


「そこでお願いがあるのです。国の祖よ、我らの礎よ。わたくしがしばらくの間、国を継ぐ準備と衰弱の回復を日々行う間に、見劣りするかもしれませんが、王の間にいる王をたててほしいのです」


「とすると、ラーガか?」


「オレは……もう」


「ラーガは無理でしょうね。深くは知らなかったからとはいえ、錯乱して祖たる竜に手を上げた時点で価値がないでしょうが、それ以上に、あれに権威を注いだら完全に壊れるのが目に見えています」


「ムウ……」


 ラーガ王子は何も言えず黙る。

 別にリュウへは全く謝罪の意を持っていないだろうが素直に妹へ情けないやら申し訳ないやらといった感情が強いのだろう。


「では?」


「であれば、ここでは追加の誰かを呼ぶのは得策ではありませんし、みな白き竜に耐えられるような者は少ないでしょう。だとしたら、ここにいるアール・グレイかアール・キサラギ。アール・グレイはラーガの派閥でして、基本的にはあまり体裁的によくありません。キサラギは、遠縁ではありますがアールの名を……つまり王位継承権を持ちます。なにより良いのは、無能だということです。無派閥で、わたくしやラーガたちの派閥との揉めがありません。あきらかに誰から見ても、担ぎ出されたのがわかります」


「む、無能……!」


「抑えて、抑えて!」


 言いたいことがたっぷりありそうだがキサラギには一旦下がってもらう。


「ふむ、しかしそれだと見劣りが……」


「ですから、お願いなのです。今の父とかつての王、姿の差異を見れば貴方様の力を疑う余地はありません。白き竜よ、貴方様のお力で、この国を、世界を救ってはくれませんか?」


 え……エゲツないほどの演技力で跪き下からリュウを潤った目で見つめた!

 女性の私ですら……色々知っている私ですら心が揺れてしまう。

 フカやアサイも例外ではない。


 例外ではないからこそ彼らの背には寒気が走ったのだろう。


「だ、だ、だめです白き竜よ! この王女は危険です!」


「まずいです! 何がまずいかわからないけれど、本能がマズイと告げています!」


「良い、下がれ。別にオマエたちの立場をフレイに与える訳ではない安心しろ」


「はい……」

「はっ」


 言われると弱いのか素直にふたりは下がる。

 そしてリュウはやれやれと言った様子でため息をつき。

 立ち上がった。

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