四百五十八生目 奥手
少し時間が立ち。
「む、動きますね」
リュウの身体が少しずつ動き始める。
時という氷が今溶け出す。
「――――し――て――い、るの、だが? 余の邪魔をするのならいざいざ反撃を加えることも……なんだ? なんだか周囲の様子がいきなり変化していないか?」
「し、白き竜よ、何でもありません、何でも……」
「フム?」
リュウは疑問には思ったもののそれ以上はわからずに姿勢を戻す。
時が止まることへの認識難しいよねそりゃ……
私も時への対策がいるよなあ。
「さて、わたくしがここに何をしにきたか、でしたね。第6の竜を名乗るものよ、わたくしは祖銀、5大竜から引退し、しばしの間、余暇を楽しんでいる者です」
「なんだ……? 代替わりが行われたのか? ならば貴様に5大竜としての責務がないわけだ。故に、蒼蜥蜴の区域にも入り込んできたわけか。ならば、余らの邪魔をしないでもらおう。貴様にとってどうでもいいだろうが」
「そうもいかないのです。貴方が5大竜を騙るのならばわたくしの実害にもなりえますし、そもそも生き物を陥れること自体、私の考えと相容れません。許容外です」
「そんなことを言われてもしらんな。余は余がやりたいことがある。そのためにはいちいち大神に対してうかがいをたてないといけないのか? この世界はすでに大神のためにあるわけではない、万物のために存在する。貴様の過干渉は再び神々の生み出した地獄にしかならん。それをわかっているのか?」
「どの口が、と言いたくなるわね……」
すごい……ここまでさっきと言うことを真逆に!
しかも根が変わってないから矛盾はしていない。
こういう言葉に慣れすぎている。
とりあえず短時間でできる対策全てをつぎ込みアサイとフカには混乱させるように念話で話した。
ふたりにはほとんど何やっているかわからなかったはずだ。
やっぱり時止めの間不安させないように報告をしなかったのも結果オーライ。
「くっ……まず……オレから……先程の非礼を詫びさせてもらう……我が国と、父が害されていたと頭に血が登ってしまった……」
「フン、全く、親が親なら子は子というのはここでも繋がるか。オマエにとって先祖たる存在に近い、国の守護神は余ぞ。余を討てばお前の大好きな国ごと消える。余の力は絶大ゆえに、王子と王女共は亡命するしかあるまい。崩壊する国家の王族の行く末など知れたことよ。誉ある斬首などは手緩いと思え。故に、結果的には止められたことを、生涯感謝して過ごすがいい。余とて、オマエに殺されるのも、無益にオマエが貶められるのも、希望する所ではない」
「うぐ……」
耐えてくれラーガ王子!
あとなんとなくだけれど……
ラーガ王子にはほんの少し態度が柔らかい気がする。
「とりあえず、ここで見せてもらいますよ、貴方の手腕を」
「フッ、指を咥えて見ているがいい。この国の問題は、この国が解決する。さて、早急に解決しなくてはならない問題が有る。王がいない、ということだ。通常、王がいなくとも次の王が準備することで国は体裁を保つ。しかし、大河王国は余の力ありきだ。余の力が付与された王がいなければ、即時国が崩れだす。正直、すでに小さな反乱程度ならば起こっているだろうが、1日あれば国は騒然とし、1週間あればレジスタンスとの内戦になる。よって、王子や王女に素早く余の力を渡す。オマエ、余の力で国を照らす薪になる覚悟はあるか?」
「んなっ……! オレは……」
「なるほど、これが上位5名しか王になれない理由……」
仕様上王に選ばれるのはアールの名を持つもの。
しかし慣例上は上位5名までとされていた。
つまり過去の記録をあらえばまあ間違いなく5名までが王族だったんだろう。
理由は政治争いの有利さではない。
選ぶのは人ではなくリュウだったからだ。
「ラーガ王子」
「わかってる……だが、オレは駄目だ……矛をたてた相手に
施しを受けるなど、王族としてできない……だから……フレイではどうか」
「フレイ王女か……しばらく顔を見ていないが、バカ親に殺されかけたらしいな。元気か、と、尋ねるほどことはできんが、確かに不憫な立場だ。ここで王に返り咲けば、十分たりうるだろう」
そこからしばらくたち。
ラーガ王子がフレイ王女を連れてきた。
フレイ王女の側近を説得するのが一番大変だったらしい。
フレイ王女とは一度も言葉を交わしていないがそれでも見て解るほどに衰弱していた。
やっぱりもうちょっと調整を入れてなおかつ……
服の着替えも組み込むかな。
「本当に、蘇ったばかりだというのに健脚だな。だいぶここまで道のりはあったが……」
「道中受けた説明で、気だるい感情が全て吹き飛びましたもの。それに、本当に蘇った直後なのに、体の不調は少ないんです。蘇生の腕が違うようですわね……」
実例を見た回数が少ないためなんともいえないが蘇生されたあとの復活で全治数ヶ月から数年とか精神をきたしてしばらく幼児退行したり魂が汚染され強い不調が続いたりするそうだ。




