四百五十六生目 激論
土着神たちに力を返すことをめちゃくちゃちゃんと拒否された。
リュウは一体……
「獣の縄張りは分かるか?同一の獲物を喰らう捕食者が争うのは当然のことだ。お前は獣に思ったことがあるのか?縄張り争いをやめて一緒に仲良く住めばいいと」
「割と、アノニマルースではそうじゃないですか? というより、ローズ様それやりましたよね」
「え? う、うんまあ」
「そういう特異な話をしていないことぐらいは察しろ。そのアノニマルースが何であれ、一般論的に獣は奪い合うということだ。それは根本的に人も、神も、かわりようはない。そして土着神に力を返すということは、若き獅子を老いぼれた獅子のために殺すが如く愚行だ。次いでいえば余は余の牙と爪で弱き神々を追い立てたことなどは無い。その証左にクソザコのあやつらは余のことを知らぬだろう」
「じゃあ獅子の例えも獣の例えも不適切なんじゃあ……」
「お前はいちいち会話の流れに突っ込みを入れなくては会話が出来ぬのか? 石の身体だけではなく頭も石らしい」
「ヒイッ」
ローズクオーツ……
にらみつけられすくみあがっている。
「民は民自身の意思で大河王国の一部になり、民自身の意思で土着の神を忘却したのだ。クソザコのあやつらが切り捨てられたのは当然だ。腹を空かせることも矢に怯えることも無い安寧をかつての神は下々に与えられなかったからだ」
「でもそれと、盗んでいいという事に繋がりませんよね。意図的に冒涜して立場を落して、そこの横からとっていつまでいるのは強盗で、盗っ人猛々しいと言われると思うのですが」
「それこそ、信仰心など有限物資の奪い合い、国が割れた状態で神々が争い続けていたのは事実。そこに余が加わることに、結果として余が勝つことになんの疑問があろうか。それに余は、別に教典へそこまで変な手を加えていない。全て……まあ、そこにいるやつとか、その親とかだな。余は、余の身を守るために基本的な事を流布しただけにすぎん」
リュウが目をやったのは床にいるおじいさん。
つまり王だ。
「王の政でどんどん都合よく変化させた、か。良くも言う、人の身にあまる力を神がつけさせて、人が暴走したらしらんぷり、最後には雑に使い捨てる、か。オレは別に王族へ興味などないが、随分と自分に都合のいい考え方を回すじゃないか」
「余は事実を述べたまでだ。それに、大河王国の信仰が虚偽であることがヴァイに伝わったとしても、今更クソザコのあやつらに頼りはせんよ。余が死ねば話は別だかな。偉大なる庇護者が居なくなればクソザコ共でも頼らざるを得まい。余の力、存在は即ち国の存続ぞ。余を弑せば即ち大河王国の最期と心得よ。なぜなら、すでにこの国は内臓に病が巣食うほどに肥大している。余は、力強く国という全身に統一させる心臓の力を授けているのだから、すでに余裕は刻一刻と減っていっている。余に害する時間それこそが大河王国の寿命を削るときと心得よ」
「でも、その力はだいぶ……めちゃくちゃ余らせているじゃないですか。しかも自分に向けられたものじゃないものがほとんど! だったら、全員で分けたほうが効率も良くなりますよね! キミはただひたすら保身を考えているだけで、国を人質にとっただけの卑怯者だ!」
「諄い! 余は事実を述べ続けているだけ。なぜ余が得たものを、自分の手で握るか、潰すか選ぶのに文句を垂れる。余の力は人が求めしもの。人が求め、神が与え、人は捧げる。その古きゆかしき構図が、雑な感情論で覆ってはならぬ。余は神であり、この国の最初で最期の神王っ。余のために人はあり、余のために国はある。さあ選べ! 余のために身を捧げよ! 国を照らす炎にくべる、薪となるのは誰だ!」
「こんな……こんな……悪魔が……国の正体なのか……」
ラーガ王子すらも王の横で脱力し倒れてしまった。
両膝と手をついて頭を下げるさまは……
まるで神に頭を垂れ赦しを乞うかのように。
「は? 神々から恩恵受ける国なんてありふれているが? トカゲのような化け物共を信仰するのは優れた王とでも?」
「うう……うっぐ……」
ラーガ王子は……泣いていた。
ただひたすら人目もはばらからず。
「悪魔の定義は人と神とでまた違うからそこは置いとくけれど、こんなやつの傀儡に……ってことはわかるかな」
「親父は……オレの……憧れだった……! 親父のような力と威厳が、いつも欲しかった……! ソレが、こんなの、呪いじゃなくてなんなんだ……!」
「どうだ、オマエも王になってみないか? 今ならもう少し、強くしてやることもできるが?」
「黙れ……化物!!」
ラーガ王子が手首をクイと曲げ動かす。
あの動きって……まずい!
今までの話を無視して紅蓮の槍が空からリュウを狙ってる!
死んだら死んだでまずいんだって!




