百五十生目 糸張
荒れ果て地形が崩壊した土地の中央で進化した"私"と巨大な黒蜘蛛が向かい合っていた。
ここで決着をつける。
甲冑を7割まで出しておく。
「血濡れでもう動けない、といったことはなさそうだな」
「錆びついてはないさ」
"私"の身体の一部だからね。
合図らしい合図はない。
ただ僅かな静寂の後に両者とも動いた。
互いに走り先制を取ったのは黒蜘蛛。
蜘蛛糸が直線状に放射されまくる。
"私"は重々しさに見合わずこれをステップ回避。
ただ避けていてもマズイのは分かっている。
とんでもない速度で連続して撃ち込まれている蜘蛛糸はデタラメに"私"を狙っていない。
的確に蜘蛛糸を地面に張り巡らせている。
当然このままではがんじがらめになるのは目に見えているだろう。
"影避け"で印象だけを残して糸の横をすり抜けるように回避。
近くまで踏み込み火魔法……
[Fリビエイション 目の前から炎の発生させ吹き付ける]
"私"が大きく口を開くと炎が発せられる。
"私"が足元に潜り込まないように警戒して低くしていた姿勢がアダとなり
糸をはいている糸いぼを直接炙った!
「くっ!?」
糸が焼き切れ軽々跳んで距離を取る黒蜘蛛。
糸の方は……炎が途中で消えてしまっている。
全部燃やすにはまるで足りない。
どうやら火魔法が使える関係で火への耐性も少しはあるらしい。
糸は燃えやすくはあるが延焼しない程度に耐性があるようだ。
ひとまず止めれた程度の効果しかないだろう。
黒蜘蛛は攻撃方法を変えようと前脚をピクリと動かしたが……
止めて"私"に水の魔法を放ってきた。
先程の赤蛇との戦いを見てて黒蜘蛛も『爪を折られるだけだ』と判断したのだろう。
しかも右前脚は既に負傷しているから余計にだ。
放ってきた水魔法は"私"よりさらにふたまわり大きいほどの水風船。
弾力よく弾む水の塊は良くて圧殺悪くて中に取り込まれ窒息。
それを試して見る気はおきない。
次々跳んでくる水風船を跳んで避ける。
しかし避けた後に水風船も破裂する。
無理やり重量ある水が放出される勢いは凄まじく"私"の鎧を通して衝撃が響く。
「――ッ!」
激流そのものにも脚をとられそこに蜘蛛糸も飛んでくる。
なんとか直撃は避けていてもじわじわ追い込まれているのは明白だった。
速射される蜘蛛糸にゆったり跳ねては破裂する水風船。
"私"に対して確実に決める為に念入りだ。
ありがたいがありがたくない。
そろそろ有効打をこちらも決めねば。
"短距離空法"で黒蜘蛛の頭上に飛ぶ。
着地して全身甲冑化。
重みで黒蜘蛛がぐらついた。
さすがにすぐにバレただろうから素早く終わらせる。
前脚の爪部分の鎧を槍化。
つまり大きな金属爪だ。
"率いる者"からイタ吉の"乱れ切り"を選択。
行動力がエネルギーとなって輝き爪に宿る。
せーの。
ザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクッ!!
僅かな時間で高速で振るわれた爪は黒蜘蛛の背中に浅くない刻み跡をつける。
掘るようにえぐるように!
燃える爪先が黒蜘蛛の背中を燃やし斬る!
最後にもういっちょ"ズタ裂き"!
「があああぁっ!!!」
身体を大きく震わされて元々しっかりした足場ではないここでは踏ん張れずに吹き飛ぶ。
空中で立て直し地面へ落ちる。
重量音が地から鳴った。
まるで腕が軽くなったようで気持ちよく切り刻んでしまった。
生命力そのものには大して大ダメージではないが"ズタ裂き"も入れた事で黒蜘蛛の出血が一部止まっていない。
サイズが大きい分虫らしい色をした血液が多く流れているようだ。
徐々に生命力を蝕んでくれるだろう。
さて痛みに苦しんでいる間に。
鎧化7割まで引っ込める。
"ミニワープ"して黒蜘蛛の前脚近くへやってくる。
一瞬こちらを見失ったスキに"火炎放射"で前脚に巻きつけてあった蜘蛛糸を焼き払った。
「ちょこまかとっ!」
ちょこまかしなきゃそっちが殺しに来るからな!
反対側の前脚で"私"を跳ねて来たので飛び降りて避ける。
そのまま水風船の直撃を避けて破裂の勢いで黒蜘蛛から引き離された。
イテテ!
まあとりあえずこれで黒蜘蛛の前脚の傷は顕になった。
そのことに黒蜘蛛も強く警戒している様子。
それにしても黒蜘蛛は出してくるものがいちいち有効打だ。
赤蛇との戦いを見られていたから着実に攻められるのは致し方ない。
また水風船が跳ねて……
違う!
これはまずい!
急激に高まる魔力反応とともに水風船がブクブクと不気味に変型する!
ドオォォォォン!!!
破裂では済まない轟音をたて周囲に水蒸気を撒き散らした。
それは爆煙のようにたちのぼる。
爆風は今は重い"私"の身体を軽々吹き飛ばして地面に転がした。
……全身甲冑状態で。
一瞬死ぬかと思った。
全身甲冑と"防御"が間に合わなければお陀仏である。
それでも衝撃は内部を揺らすし着地ダメージは痛い。
重い分受け身はとってもどうしても痛みとして響いてくる。
「ここまでの行動は全てこのためのブラフか!」
「我は今ので決めるつもりだったのだがな!」
普段から全身甲冑にしておけと思われそうだが重いんだよ。
重いと動くのにも疲れ跳ね上げられればダメージが増す。
「カハッ」
口内がどこかが切れたさいの血を吐き出す。
飲むのなら相手の血だな。
"ヒーリング"をかけて生命力を戻す。
今さっきのが二つ名の由来でもある複合魔法だろう。
大量の水を作る水魔法と強く加熱し爆発させる火魔法を組み合わせたなんちゃって水蒸気爆発。
威力は絶大。
次々と飛んでくる水風船と蜘蛛糸を避けつつ破裂でじわじわとこちらを蝕むしその中にたまに水蒸気爆発する爆弾が紛れていても直前までわからない。
いやらしくそして実に効果的だ。
だが全弾水蒸気爆発する魔法にはしてこない。
……やはり事前に睨んでいたとおりかもしれない。
なるべく水風船たちの少ないところに"ミニワープ"したり全身甲冑と"防御"を使い受けたりと必死に耐える。
"ミニワープ"して水風船の少ない場所に飛べば"ヒーリング"の時間が稼げる。
向こうとこっちの我慢比べのようだ。
僅かなスキさえあれば背に回り込み右前脚を狙う。
右前脚を槍化して斬る!
そこを狙ったように水鉄砲の魔法が飛んでくる。
水風船の魔法が出来るのだ水鉄砲も使えるか。
前脚が水圧に負けて身体ごと吹き飛ばされた!
なんとか着地。
こんな調子をひたすら繰り返していた。
こっちは有効打になりやすい傷ついた前足を狙いたいし向こうは水蒸気爆発でこちらを仕留めたい。
"私"も適度に魔法を使い燃やしたり石を飛ばしたりするが当たりは浅い様子。
向こうも蜘蛛糸で"私"を固めてしまいたいがさすがに避ける。
爆風も"空蝉の術"で避けたいが爆発や破裂は完全に向こうが想定したタイミングだから細かくズラされ難しい。
互いに決め手がないままに辺りはどんどんとヒートアップしていった。