四百四十八生目 制裁
王がどんどんと権威という形をなした神力を剥がしていく。
王にまとわりつく力はのこり人差し指と親指のみ。
「ご、御慈悲を……! 白き竜よ……!」
「先代の妃がオマエを抱いて謁見した50余年前、そして我らが二人で初めて会ったのは40年前か。先代のように良き王になると夢を語った子供は数年足らずで先代の不正に目を閉じより深みに溺れるようになった。オマエはもう無理だ。転機にも潮時がある。もうすでにオマエは汚泥の中でしか息のできない存在だからだ」
「違います、白き竜よ、儂は何も悪くない、周りが、バカな国民たちが、無能な子どもたちが煩わせるだけで……」
「そして、なにより力だけ渡せば良い老害の余か?」
話を聞いてきて考えはしたけれど……
意外に年齢いってそうだなあ白き竜。
多分100はこえているからまさしく神として肉体の成長も老化も止まっているのか。
「そんな、滅相もない……! 御慈悲を……!」
「そうやっていわれて、助けた相手はいるのか? 王よ」
「な……!?」
「そうさな、オマエ流に返せば……余に指図するとは、何様だ」
「ガハアッ!?」
ついに指が全てはなれ王は握りつぶされたかのように息を吐く。
地面へ落ちそのままノビてしまった。
「返してもらった」
「え? え?? し、しんで……?」
「命に一切の別条はない。そも、傷が入っていないのだ。案ずるな、王が本来の……単なる人へと戻ったのみだ」
白き竜はドラーグのほうを見ずに答える。
王はさっき見た単なるおじいさんになりはてている。
本人の変化は殆ど無い……はずなのに。
あの威厳も冷たさも見下ろす気配も単なる下駄を履かせてもらっていただけだった。
『う……く…………』
絶句した念話がラーガ王子から響く。
声にならない声が念話として届くなんて……
よほどの強い感情だ。
『これがこの王の……いや、この国の実情だった、というわけか』
『何なんでしょう……ワタクシ、正直に話しますと……思っていたのと違います』
『そんな……これじゃあ、王が変わろうと国はかわらず、元をたてば国が崩れる、ということですか!?』
キサラギやローズクオーツは困惑し……
アール・グレイは核心を理解してしまった。
私も背後に潜む神と権力に溺れた王をどうにかすればと思っていたんだけれど全然違う。
もっと効果的な手を考えないといけない。
記憶は記憶なのでこちらの様子など気にもとめず進んでいく。
「い、生きているならなんとか……いいのかな?」
「さて、話を最初に戻すとするか。貴様の母親……母親と言えば良いのか? それが、何をしたか。それは簡単だ」
「な、なんなんですか……」
「暴力」
思わず私やドラーグなどの知ってる組の視線がさまよった。
うんそれはね。
めちゃくちゃ知ってる朱竜の姿でしかないね。
「その……心あたりはよくあります」
『心あたり、あるのか……』
『朱の大地出身者なのか、この小さいのは? いや、確かそこの仮面と同じやつだったか? 確か朱の大地では、未だに朱竜がいるらしいが……』
『うん、まあ、うん……』
私は適当にアール組の話をそらす。
実際記憶の方は何も変化はないからそのまま進んでしまうし。
「余も何度か被害を受けている。朱蜥蜴の区域で余の魂が定着すると、しばらくしてかなりの割合で焼かれる。他の蜥蜴共の区域でも、大神同士による戦闘の余波で国が吹き飛んだことはあるが、何度も直接焼きに来たのは朱蜥蜴だけだ」
「それはご愁傷様で……いや、別の場所でもにたようなことしているのなら、焼きに来るんじゃないですか!?」
「知らんな。過去にいる余と今の余は何もかも一致するわけでもないし、その時そのときで状況が違う」
「うーん……」
確かに今回は焼かれる側もなんというかね。
というか魂が過去にも定着とか過去の自分と完全な同一性がないみたいとか少し気になるな……
今は関係ないので話は進んでいく。
「さあ、デッキはできたのか?」
「あ、はい。なんとか」
「初心者ゆえ、あまりデッキの出来を期待はしていないが、どれでも戦えるように調整はしてある。そこに手は抜かん。安心して振るえ、そのソウルを」
相変わらず言っていることはちょっと世界観が違う気がするけれど白き竜がこちらを向き『完璧』な笑顔をする。
好戦的な笑顔だ。
ドラーグは他のカードを片づけつつ用意。
「開け、戦場の扉!」
白き竜が宣言すると中央に置いてあった本がパラパラと展開していく。
魔術本だったらしい。
光で互いの場に情報が書き込まれ増えていく。
「これは……?」
「ソウルメイダープレイ用の本、ジャッジメントブックだ。魔術でソウルメイダーの世界観を再現する。行くぞっ、先制後攻を決めろ!」
ついに戦いが始まる……って言えばいいのかなこれ。




