四百四十七生目 剥奪
ドラーグはこの試合において負けたというのが未来において理解できる。
リスクが少なかったのは何よりだ。
「うう……脚が……でも……」
(嫌がっておいて、これで負けた時のダメージを減らそう! 僕は脚を斬られても他と合流すれば無事だ!)
『これはこのドラゴンの考えている言葉か』
『フム? そういえばこのドラゴンは何なのだ? 侵入者らしいが』
『あ、それは……僕です。詳しいことはあとで言います』
『『は!?』』
複数の念話が重なった。
わ ドラーグもドラーグでここで宣言するとは……
まあ色々大詰めだし逆に混乱させないように今情報交換したほうがきいかもしれない。
記憶の方は白き竜が言葉を続ける。
「そして、貴様が勝てたならなんでも1つ願いを叶えてやろう。余は嫌だが、黒蜥蜴がこの国の王になってもいい」
「なっ!? 白き竜よ!? それは儂の立場が!」
「ええっ、僕王様やりたくないですよ!?」
「もののたとえだ。そもそも負ける気はないし、そのぐらいやる気を出してもらわねばならない。余が叶えられない願いなど、そうそうないということだ。金、権力、場所、武器、能力……余の力ならば、かなりの限度で集められるぞ?」
この条件は……のみたい。
白き竜にこの国で行う悪事をやめさせるには。
記憶の中にあるドラーグは目つきが真剣になったらしい。
「そうそう、オマエに関してなのだが……」
白き竜が王の方に向き直る。
王は平身低頭だが必死な様子。
それはそうか。
自分の立場いつの間にやら危ういし。
そして白き竜は肩を動かす。
多分なんとなく先を想像するに腕を伸ばしているのだろうか。
「返してもらうぞ」
「グハアァッ!?」
『なんだ!?』
『これは! 王さまから力が……権威が剥がされている!』
それはドラーグの記憶内ですら見えた。
王を掴み守っていた神力の腕が実体化。
指折り王から剥がれていく。
「お、おやめ、おやめください……!」
「王よ、余は権威を与えるが王を守る神ではない。余はこの国に座する神であるが我が代理人たる王はオマエでなくてもよいのだ。玉座を守れぬものは王座を追われるのが自然な役目だ」
「そんな……! だから、殺してでも守っていたではないじゃないですか……!」
「フム、言い方が悪かったか? それとも必死すぎて脳が回らぬか。オマエはやりすぎた。子を殺したり蹴落としてまで自分の立場に固執するとは、よもや国を滅ぼす気か? その感じでは、余に報告していない悪政もたくさんありそうだな」
「そ、それは……儂の、王家のために必要で……!」
なるほど報告は王様たちしか基本的にはないのか。
だったらかなり小さい情報しか入ってこないだろうなあ。
フカが暗殺や潜入得意そうなのは調べるという仕事もあるのだろう。
実際に先程の話を聞き続けているに神力を神々から奪ったのはたしかに白き竜だが国政に関しては権威という強大な神力に振り回されてしまった王のせいっぽい。
しかも白き竜の力によって国が保たれていて変に反乱もおきたりしていないと……
あれ? 白き竜の力がないとどうなるんだ?
それに白き竜って思ったより表に関与していない?
「ハハッ、喚くな。余の力は、権威なのは知っておろう。余が力を与えつづけるかぎり、お前がどのような悪政を行おうとこの国全ては無理にでも保たれる。それを散々利用して私腹をこやし、だのに不安で痩せるほどに勝手に暴れ、変な締め付けを行う。わかるか? お前はもう、余の力を侮り、余を貶しているのよ。先程から反論にもなっていない口ごたえがすぎるしな」
「そ、そそ、そんなつもりは、決してぇ……!」
王が……どんどんとしわがれていく。
あまりの恐怖か。
力を剥奪される副作用か。
念話たちもこの光景に絶句していた。
白き竜が1つの板切れを念力で持ち上げる。
それを白き竜が読んでいるようだ。
「実は、まだ未読の調査報告がここにある。たまに余の趣味でな、外の情報を集めてもらっている」
「ヒィッ」
王の顔が一気に青ざめた。
言葉の真意を理解したからだ。
記憶の中にいるドラーグは向こうも気になるが勝てるやつを選ばないと……と必死になっている。
「ふむ……は?」
「な、ななな、何を……」
「冒険者ギルド、潰したのか? なんで? バカなのか? 自分たちが困るだろう? 嘘だろう、多分魔物被害増加と魔物由来品高騰、それに迷宮情報の断絶や迷宮物資の情報ごと削れていたりと、かなりの痛手だろう? 大河王国は別に騎士兵士たちは迷宮探索しないはずだ。だが、国は、人の世は事実上迷宮からの品々に生活向上の多くを依存している。特にエネルギー源はな」
「そ、それは彼らがあまりに武力が高すぎて、儂らに歯向かう力になるやも……」
「耄碌、か……」
深い溜め息のような声。
白き竜は声にならない声をそこに多く含んだようにも聴こえた。




