四百四十六生目 右脚
王は突然正気をなくしたわけではない。
……とっくに正気などなくしていた。
おそらく既にこうなっていたのだろう。
それを今までは正気があるかのように保っていただけだ。
まともじゃない。
少なくとも親としてはクズ同然だろう。
『王……』
ラーガ王子の声が絞り出すように聴こえる。
ただここから今の状況にどう繋がるのか。
「王、下がれ。準備が出来た」
「ハハッ!」
「……資材身分に正直余は引いている。ヴァイはあの様なことをしないと思っていた頃もある。だがわれわれも新参といえど神としては長い。ことが起きれば隣人の赤子まで殺すのがヴァイの人間がすることだというのが今の理解だ。ヴァイの利己性の結果でしかない。まだ使用しているだけ理が通っているといえよう」
「は、ハッ!?」
「え、白い竜さんもダメだと思っているんですか?」
「余が命じたことなど思ったより些細でしか無いぞ。ほとんどがコイツラがやった。さっきも話したとおり、余が直接命じるなどめったに無い。それがあるだけで生涯の誉れなのだから」
白き竜すらジト目で王を見ている。
王は変な汗をかくしかなくなっているようだ……
なんなんだこの状況。
なんだかおもっていたのと違ってきたな……
「さあ、外の煩わしさを忘れ、今だけは互いに譲れぬものをかけて闘おうではないか。まあ、実体は余の憂さ晴らしだがな。先程聞かせた通り、余は潰そうと思えば貴様程度軽く命じて潰せる。それではつまらん、そこで、これだ!」
白き竜は空中に何かを浮かべる。
それはどこかで見たことの有るような……
というかあれって。
『トレーディングカードゲーム……?』
『む?』
『は?』
『まさか……』
『カードの柄をチェック。トレーディングカードゲームの一種、ソウルメイダー』
『『ええっ!?』』
私もびっくりしたよ。
ノーツが確定してしまったが。
「えっと、それって……?」
「まさか、しらんのか? これだから庶民は……これから楽しみを知れるのだから、たまらんな」
白き竜は笑いながらカードを念力でうかべていく。
ドラーグの「それって?」とは知らないのではなく知っていてなんでそれなのかという話だ。
ドラーグも昔アノニマルースのキャンペーンで触っている。
ドラーグだって多少動かし方は知っていた。
「これはソウルメイダー。この世界に昔からある不可思議なカードだ。人によっては異世界からもたらされた者と話すこともあるな。とかく、これ自体はただの紙で、表にはなんからの絵と説明テキストが書かれているのみだ」
クルクルとカードが回ると裏面は情報のない紋様で……
表の面は美しい絵柄で魔獣の角ウサギが書かれ下側に丁寧な印字がなされている。
よく見ると右上に数字やら模様もあったり細かい。
「このようなカードを30枚セットになっているのが、デッキと呼ばれる。専門用語で言えば、メイトだな。種類は多数ある中から自分で選んで集めるものだ。余はもちろん、世界中のカードを持っている」
「そ、そうなんですか」
「デッキをそれぞれもちいて対面で戦うのが、デクレア・ウォー! 基本的な対戦というわけだ。詳細なルールは――」
そこからはしばらくソウルメイダーの話だった。
念話からうなるようなどうでもよさそうな声がもれてくる。
気持ちはわかる。
しばらくして解説が終わりやっと解放される。
あくまで記憶を順繰りに再生しているだけで早送りとかカットはできないのだ。
いつの間にか中央に本が設置されていた。
「さて、後は実際にやっていきながら覚えてもらおう。余は世界中のカードを持っているから、幸いにしてメイト構築はたくさんしてある。デッキが動くようにセットしてあるベース20枚と自身の好きなように動かせるカード10枚になるように、さっき用意した。20枚ベースデッキ自体は昔組んだものだ。どのベースを選び、どの追加カードを選ぶのか、貴様に決めさせてやろう。もちろん、その様子はみない。オマエも、余計な口出しはするな」
「ハハッ」
王は相変わらず白き竜には平身低頭。
ある意味感心する。
それほどまでに力は偉大なのだろうけれど。
ドラーグの前にはたくさんのカード山が出来上がっていた。
20枚ずつ小箱に入っているのとそれぞれジャンルごとにわかれて入っている箱がある。
ちゃんとどの箱が何のコンセプトデッキなのかかかれていた。
律儀に白き竜は座椅子ごと反対を向いている……
「今のうちに勝敗の話をしておこう。余が勝てば、貴様の右足をもらう」
「ええっ!?」
「何、出血多量で殺すつもりはない。その醜い右足をベットするだけだ。神の誓いはこの空間内で絶対に働く。右足だけもらう。血は出ないはずだ」
……これがさっきドラーグの右脚が切れていた理由か。




