百四十九生目 貫通
粉塵爆発。
細かい理屈は前の世界とは違うだろうが爆発が起こっている。
おそらくそういう『スキル』なのだから。
だから逆利用させてもらった。
鎧全開!
全身を鎧で覆って大爆発に耐える。
距離としてはやはり近いからこちらにも爆風が来るのは致し方ない。
だが赤蛇は直撃だ。
しかも傷に響く位置に。
「ぬあああぁっ!!!」
赤蛇は耐えきれず悲鳴を上げその長く巨大な身体を乱れさせた。
とぐろを巻いて固めていた防御が崩れたのだ。
外側の赤い鱗は頑強だが内側の白い部分とそこに負った傷口はそうでもない。
卑怯であっても勝つための手段としては真っ当。
今を狙う!
鎧を7割まで引っ込めてその代わりに鋭い角のように前へトゲを向ける。
走り込んで爆発のダメージに手間取っている赤蛇の長い体を潜り抜けて目標を捉える。
「なっ――」
「そこだッ!!」
全身甲冑モード!
さらに土魔法"ヘビィ"をかけつつ強く踏み込んで跳ぶ。
針を変化させた角は太く肉をえぐるためにギザギザがある。
跳んだ身体はまるで力強く投げられた槍のよう。
補助魔法で槍が纏った炎は燃え盛る。
跳んで放物線を描きその圧倒的重量を持って傷口に刺さった!
「があああぁぁっ!!」
鱗のない肉はその重みに耐えきれずやすやすと侵入を許す。
激しい血しぶきがせめてもの抵抗ながら無残にもさらに奥まで刺さり中の重要な『何か』すらも貫く。
ぐにっと弾力がありつつも貫いたときの柔らかさはなんともくせになる。
さらに全身が赤蛇の血で染まって歓迎された!
さあさあここからここから。
"私"は刺したままその重量に任せ地へ降りる。
そのさいに激しく肉を削ったがこの程度ではまだ足りない。
大地へ立ったらさあ上を向く!
グジャリ!
赤蛇が暴れる程に深々と刺さる槍は"私"の動きに合わせてその刺さった一部が持ち上がる。
なんのなんの。
踏み込んで強く右へ振る!
ギザギザの『かえし』のせいで抜けない槍。
その分赤蛇の身体全体が振られる。
重量や大きさがほんの小さな"私"に負けているとでも言うように。
実際に全身甲冑と"ヘビィ"を組み合わせた"私"とこの赤蛇どちらが重いのだろう?
それを決めるためにも右へ身体を踏み込みつつ振る。
その赤蛇は"私"の動きに合わせ全身を持ち上げられ吹き飛ばされた。
右へ左へ上へ下へ。
子どもに掴んで遊ばれるかのように何度も何度も叩きつけられた。
「やめ、もう、っぐあっ、ふぐっ!!」
そんなことは赤蛇にとって初めてだったらしい。
"読心"すれば前までの勇ましさはどこへやら。
恐怖一色に染まっていた。
本能的に勝利は無理だと悟るかのように。
無慈悲に全身を振り回される赤蛇ははたからみたらおもちゃのようだろう。
おもちゃ側に勝ち目はない。
だからこの1発で決める必要がある。
ほんの少しの対抗心も削るかのように。
"私"に血を注げ!
はっきり言えばこの赤蛇は"私"より単純比較では強い。
今はこちらがデータを握って初見殺しで対処しているだけ。
"観察"で生命力を"読心"で心の踏ん張りを見つつ振る! 振る! 振りかぶる!
さすがに重量オーバーでスタミナがガンガン減る。
ひと息入れるタイミングをうまくはからねば反撃される。
僅かなミスで逆転されるのはこちらだ。
それでも何度もしつこく振ればその巨体ゆえに全身が悲鳴を上げる。
生命力もだいぶ削れてきた。
そして赤蛇が心で感じているのは声にならないほどの悲しみ。
絶望。
もはや赤蛇は痛みが走りすぎてどこが痛いのかすらわからないかもしれない。
内臓をぐちゅぐちゅされながら全身振り回され叩きつけられて良く耐えたほうだ。
誇って良いと思う。
だからその心につけ込むように"ヒーリング"と"無敵"を重ねがけして『話し合いが出来るように』する。
ここまで強い相手だからここまで追い込まなくてはならなかった。
もう"私"が身体を振り回さなくても赤蛇は力なく動かなかった。
角が肉を捕まえて離さないせいで出血が常に私を染めていく。
鎧越しというのもなかなかオツなものだ。
まあ"私"の一部だしね。
……そうして"無敵"の効果が入った。
「……殺せよ」
攻撃が止んだことに絶望の淵から気づいた赤蛇がその1言だけ発した。
「降参しろ、この絶望を終わらせてやる」
赤蛇はこの一瞬で何を思ったのか。 走り去った感情が多すぎて"読心"では読みきれなかった。
「……降参する」
……角化解除。鎧化50%。
赤蛇はこうして敗れた。
もう反抗する気も起きないだろうし"私"やツバイの話も聞いてくれるだろう。
どう思うかは別だが。
とりあえず赤蛇はフッと気を失ってしまったらしい。
まあ死ぬと思ったのだろう。
実際は現在急いで治している。
内臓の傷は聖魔法でやっているから治療痛が本来ならひどいはずた。
気絶していて良かった。
絶対に大暴れするほどの痛みだもの。
……おっと、気づいたら周りの様子がなんとも言えない感じになっているようだ。
治療しつつ周りを見ると蛇軍団はドン引きしている。
そして"私"たちの群れは骸骨はともかく生きている彼らは大喜び。
それと同時に蜘蛛軍団に睨みを効かしている。
蜘蛛軍団はなんというか……むしろチャンスだと思っている。
赤蛇の倒れた今踏み込むチャンスだと。
そして状況をただしく理解している大きな黒蜘蛛だけがその蜘蛛軍たちを静止していた。
……とりあえずフルで生命力を治そうとすると時間と行動力の消費が大きすぎるし気絶から目がさめそうにもないから命に別状がなさそうになるまで回復して放置。
さてこの赤蛇の大きな身体が黒蜘蛛との戦いには邪魔である。
どうしようか。
("ゲートポータル"を床に作って落とせないかな?)
ああなるほどツバイ、分かったよ。
"短距離空魔"でまずは蛇軍団の近くに降り立つ。
ビビる蛇軍団はスルーしてここに"穴移動空魔"その1の穴を地面に垂直に作る。
元の場所に"ミニワープ"で帰ってきてから"ゲートポータル"その2の穴を赤蛇の身体真ん中らへんに大きく作る。
地面に対して平行にそうように。
そうすると赤蛇の身体が穴へと吸い込まれるように落ちて……
蛇の軍団の方の穴から飛び出した。
これで移動完了である。
蛇軍団のザワザワは気にしない。
蜘蛛軍団に集中せねば。
「さあ、次の番をどうぞ」
「……分かった」
黒蜘蛛は私が見せた手の内から勝機を見出したか。
それとも絶対に引けないという覚悟からか。
先程よりも闘気に満ち溢れていた。
私も補助魔法をかけなおす。
それにしても補助魔法の中に"火付与魔法"つけていたけれどあまりお肉は激しく焼けなかったんだよね。
むしろ血に押され気味だった。
おそらく赤蛇は炎耐性とか持っていたんだろうな……
見た目からして火に強そうだしね。
ならばこちらの黒蜘蛛は炎が更に効いてくれるかな。