四百四十四生目 記憶
白き竜。王様。私達。ドラーグ。
全員が全員この意味のわからない状況で戸惑っていた。
「あれが、白き……あぐあっ!?」
「み、みんな、よくわからないけらど、白き竜を見ないで!」
「ど、どういうことだ……余の神殿に下郎がこんなに……」
「白き竜よ、お赦しください……聖域へ侵入を許してしまいました」
ベリーショートベールで顔を覆っている女性二人組以外のニンゲン組と私はみんな頭を抱えている。
ノーツは冷静だがクオーツはフリーズしている……
この差はやはりニンゲンの魂に反応した見られることを基点にした攻撃?
何か似たような神が昔いたような。
「あ、き、キミは……まさか! ここで娼婦の真似事をさせられていた! 行こう、ここから逃れよう!」
「「あっ」」
誰かの声が重なる。
というか私の声も重なった。
あまり深く説明できなかったのが致命打になってしまった。
戸惑っていた白き竜の顔が途端に苦虫を噛み潰したように歪む。
マズイ。
神力解放!
「今日は、今日はなんという厄日! 余を、余を見て出てきた感想がそれだと!? 何もわからないのか、下賤、下種、下郎があああ!!」
「みんな、下がって!」
領域展開出来るまでチャージする余裕はない!
向こうの『じたんだ』に合わせて神力を変化させて刺す!
直接目で……なるべく見たくはないけれど神力を視れるのはデカイ。
神力が渦巻いてどんどん白き竜の中から溢れ出ているのがわかる。
これは単なる怒り。
事象改変し概念を書き換えるような本来の神力が発するやり方とは違う。
だからこそ私の神力を鋭く尖らせて……
「ハァッ!」
「何っ!?」
概念を塗り替える!
神力が突き刺さった白き竜の全身からは濁流になりかけていた水流が僅かに溢れる。
神力が水に成り立たず霧散したのだ。
こういう時に大事なのはためらわないこと。
能力を選ぶ場合ではない。
"無敵"は発動させつつ……
懐に飛び込む。
「まっ、待てそうりゅ……」
「やあッ!」
切り裂くように大きく殴りつける。
その『完璧な』身体へ瞬時に乱打して最後タックルするようにボディへ叩き込む。
白き竜は大きく吹き飛んで背後の壁へ叩き込まれ砕かれて煙が舞った。
「……おい、ローズオーラ。対話とはなんだったのだ」
「これも大事な対話ですよ、本当に」
いまの"無敵"あまり通った感じがしなかったなあ……
キサラギは今にも倒れそうな青い顔をしているのに言うことは元気そうなので白き竜が遠ざかったことでマシになったようだ。
本当に今濁流を食らったら何人か死んでいてもおかしくなかった……
「ええと、みなさんにここであった記憶を共有できると良いのですが……」
「む、そこの魔物、大怪我をしているではないか。いや、血が出てない……? どういうことだ」
「そこらへんも含めて、です」
「だったらワタクシが能力を使います」
アール・グレイが右足をなくしたほうのドラーグに近寄る。
ドラーグは目を閉じて記憶を振り返り……
「私は念話能力で出来得る限り時間効率を考えた短縮伝播を協力します」
「頼みます、能力と能力の掛け合わせは、大きな効果を生むはずですから」
私はアール・グレイのスキルである念話による記憶の共有を"以心伝心"で補助する。
私達はわずかな時間で情報が脳裏に展開されていく……
それはちょうど領域展開をされた直後だった。
世界が全く別の場所。
……美しく白き輝きたちが流れている。
シルクロードと呼ぶべきか。
まるで星屑たちが流れて空間全てを巡っているような絶景に心奪われる。
水流たちが輝いていた。
聖なる水たちを讃えるようなこの空間は足場だけはしっかりしている。
逆に言えば少し向こう側へ行ってしまえばどこかへと落ちてしまいそうだ。
ここから落ちたらどうなるか気になるけれど普通に落ちない気もする。
「余の話、もう少し聞かせてやろう。余の力は、国を平定する力を与えるというものだ」
白き竜は何か手元で作業をしている。
なにかの箱を亜空間から取り出しているようだ。
「国を平定とは、また大きく出ましたね……」
「もっと細かく言えば、その力を与えるだけであり、力を人がどう使うかはまた別だ。その力で国を納めたり、壊したりもするだろう。余はその力の概念を、権威と呼ぶ……うん? 少しまて」
白き竜がマントをはためかせるとその下には腕がない。
『そういえば、この白き竜とやらは腕がなかったな』
『うわっ!? 声が!?』
『あ、私の力があるので念話も通ってます』
いきなりキサラギの声が聞こえてきてみんなびっくりしたらしい。
時間圧縮しているこの中を共有している以上私達の流れる時空はみんな共通なのだ。




