四百四十一生目 突入
全員が全員やれることをやっていく。
最初はとまどい震え逃げていただけのニンゲンたちも次第に自分が出来ることをしだす。
凍らせて一時的に水流を止め……
鉄壁を生み出して制御し……
斧で木材を斬り倒して塞ぎ……
少しずつだが濁流から逃れられる用になってきた。
……うん!?
これは一体?
「あ……」
「どうしました、ローズオーラさん、それにドラーグさんも」
「アール・グレイさん、ちょっと、向こうが大変かもしれません……!」
ドラーグの言うとおりだ。
念話通信が切れた!
つなぎ直せない!
時が戻り。
ドラーグが空に浮かんで濁流をやり過ごしていると。
やがて水流が収まってくる。
「これが……神様の実力……こんなにも強いんだ、神って……」
めちゃくちゃドラーグに勘違いされていそうだが強さなんて神によりピンキリである。
この水流にはみんなには言っていないけれど神力が形になり暴発したかのような痕跡がみられる。
国中から集めた力をこんなふうに暴発させるあたりえげつない量を集めていそう。
ただ攻撃性はない。
本人が物凄く強いかどうかの証明にはならないだろう。
やがて水のかさが減り中から白き竜があらわれる。
もちろん『完璧な』男の子が玉座に座っているだけだ。
……足の欠損と代わりの棒を見るとなぜかひどい頭痛がするからあまりみないでほしい。
白き竜は肩で息をしつつ徐々に発生する濁流が収まっていく。
「危なかった……」
「ありがとうございます、白き竜よ……」
女性たちは白き竜が守っていたらしく淡い光が球状に覆っていた。
白き竜自体もそれに覆われている。
自分から発生させておいてまったく濡れていない……
あくまで変化しきったあとは単なる濁流。
発生源が1番安全なのはよくあることだけれどなんともしがたい。
「少し落ちついた……さすがに、少し疲れたが……黒蜥蜴、お前は戻れば仲間に、しっかりと余の誤解を解くように。これは命令だ」
「は、はぁ……」
「しっかりしろ、これは必ず解かねばならない認識だ。貴様程度の者が、余に直接命令を下されるのだぞ? めったに無い幸運、しかと味わえ」
「い、いやいや、僕、それは伝えますけれど身分とかよくわからないし、上から偉そうにするのはやくないんじゃあ……」
ドラーグはわざわざヒラヒラと降りて話をする。
ていねいさでもあるが……
この場合非常に危険でもある。
「身分の差を糾弾する資格が貴様らにあるのか? 我が王国ほど仔細ではあるまいが『ヴァイ』は親と同様の道を歩むものだ。路地裏の娼婦の娘が王族になれるとでも? 夢を見るにはまだ早い時間だ」
「何の話ですか!?」
「そう、蛙の子は最初お玉杓子であろうとも蛙と育つ。故に、赤蜥蜴の仔よ。余は貴様が許せん。赤蜥蜴の仔は赤蜥蜴であるが故に」
「えっ!? え?」
ドラーグも困惑しているが私も困っている。
どうしようかこれは。
ちょっと向かったほうが良いかもしれない。
相手が神である以上神として無茶苦茶な力を振るうことがあるかもしれない。
何か知らないけれど朱竜に異様なまでの執着を見せている。
先程のような怒り散らかしとは全く違う……
淡々とむしろ感情すら声から伝わってこなくなるような。
感情よりももっと根源からの拒絶というか。
その相手が白き竜という存在の上で嫌で嫌で仕方ないというか。
尾の揺れ1つすら緊張感で満ちる。
その圧をドラーグは受けていた。
「では、殺しますか? 黒トカゲ程度、直ぐに」
「ひえっ」
フカがどこからか一瞬で指にスローイングダガーを持つ。
しかし白き竜が手を上げ制止した。
フカは素直に下がる。
「殺しはしない。命のやり取りは『ヴァイ』ならば愉快かもしれないが、余はそうではない。そもそも黒蜥蜴の死程度、赤蜥蜴ならば片手間に灰の中から蘇らせる。嫌がらせにも程遠い。そうだな……」
白き竜は小声で何かを女性たちに告げると女性たちは足早にこの場を去っていく。
「あ、あの〜、ママが一体、何かをしたんでしょくか。正直、ママならなんでも心当たりがありそうで」
「これからは話そう……貴様と余だけの空間でな」
そして一瞬神力のようなものが白き竜から発せられたあと……
"以心伝心"が切れた。
いや絶対これはヤバい。
すぐにでも乗り込まないと。
幸い濁流の最大水流分は既にウクシツ大河へ流れている。
『こっちのドラーグ、すぐいこう』
『わかりました!』
『もちろんワタクシたちも!』
『フォーマンセルで突入を推薦』
もりあがる私達の前に……
3人の影が立った。




