四百三十九生目 逆鱗
ドラーグに対してあんまり見ないように伝えたらそれとなく視線を背けるようにしてくれた。
私は今精神を電流で焼かれたような気持ち悪さを味わったが……
ドラーグはなんだか平然としている。
「トカゲには効果が薄いか……まあいい。我こそが歴史より追われた白き竜、真なるドラゴンである。頭を垂れろ、無礼者め」
「……へ?」
『え?』
複数気になることがある。
まずトカゲには効果が薄いということ。
私は見て考えるだけで謎の苦しみが起きてドラーグが平気なのは何かがあるのかな?
そして。
「白き竜って……誰がですか?」
「口を慎みなさい、憐れなトカゲもどき。この感じる気配でわからないの?」
「良い、フカ。そもそも白き竜がなんなのか、この……わざわざご丁寧に黒いトカゲであるコイツにはまったく理解ができんだろう。無知蒙昧な『ヴァイ』のお前に、教えてやろう。アサイ」
「承りました……知らぬことは罪だと、しっかりと教えてさしあげます」
フカは物理的なこわさがあるけれどアサイは舌なめずりのような音もベリーショートベールの向こうから聞こえてきて精神的にこわいな!
アサイは数歩前に出て恐ろしく笑いかける。
「この国に伝わる、5大竜神話、そして教えはご存知で?」
「え、ええ、まあ少しは……」
「それでは、違和感を覚えたことは?」
「何か……他の国とイメージが違うように思えました」
「おや、そこまで話が通るのなら、早いですわね。それでは、王と連なる者にのみ語られる、真実の神話を」
フカがどこからかハープのような楽器を持ってきてアサイに持たせる。
アサイは片手にハープを弾きながら語る。
「な、なにかはじまった……」
「5大竜は聖なる大河、ウクシツと共に流れる魂の奔流を見守る存在……しかし、ある時大きな穢れが、河に流れ込む……」
ポロロンと美しい音色が響く。
ドラーグの視線がそちらに移ることで頭痛が収まってきた。
やはり何か白き竜が仕掛けているとしか思えない。
「5大竜は凄まじい穢れをその身に受け、穢れに染まる……しかし5大竜は守り通した、白き竜を……穢れた彼らは、意思が反転、白き竜を追い出した……5大竜、守るべき穢れぬものを忘れる……」
へぇー祖銀さんにそういう宗教知ってます? って手紙送っておこう。
「白き竜、穢れを清めるため、王に力を、民の魂に昇華の時を、白き竜が表に舞い戻る時、世界に真の平和もたらさん……」
「白き竜のお方は今、大部分の力を失っておいでである……しかし、それでも失わぬ真の輝きこそ、彼が白き竜である証左。王に力を与える代わりに、穢れた5大竜から隠れられる場所を得ているわけだ。この国が多くの浄化で満ちれば、白き竜は必ずや5大竜の穢れすら取り除いてくれる。信仰の違いも、真実を知っているかどうか、だ」
う……うん。
朱竜が本当は優しいけど穢れて変化しちゃったとかそんなような?
どうリアクションすればいいんだろう。
直接あったけど確かにヤバい奴ではあったけど穢れるどころか元気満タンだったような。
なんだろう本物にあってるのもあってピンとこない。
いかにも誇大広告で「これが真実のなんちゃらかんちゃら! 歴史に埋もれた事実!」みたいな書き出しのようで。
『今の話、どうですか?』
『びっくりするほど胡散臭い……もう少し話を引き出せないかな』
「あのー……その王族にしか話を聞かされたということは、もしかして僕消されるんでしょうか?」
「まさか? ねえ、白き竜様」
「さて、ここでおまえが無事外に出て、その声を変える謎の術で人間たちに話すとしよう。お前と、王、どちらを信じるか?」
「……王様、ですねえ」
なるほどそりゃそうだ。
現に私はこの国の教典そのものや裏神話全部信じてない。
「じゃあ、なぜそこまで話を? というより、白き竜さん? でしたっけ。聞いていた元の話だと、ニンゲン同士の秘密のえっちな場所で、男の子がえっちのために隠されている、とのことでしたけれど、何か酷いことされてませんか? そう、王様から話を聞かされたとか……」
「話していたのは、お前の奥に何か穢れたものが見えたからだ。単なる穢れじゃない……もっと本流に近いもの。それに、えっちな……? まさかここがハレムで、余はあてがわれる女の変わり種にされていた、と、そう思われていたと……?」
「ええ、まあ。それと本流に近いって……ああ、さっきの話の流れだと、確かにそうなるかもしれません。僕、朱竜がママ……あっ!」
ドラーグはほぼ言い切ってからしまったと口を塞ぐ。
……一気に白き竜から発せられる圧力が増した。
単なる気迫だけではなく何か神秘的な。
ドラーグを通すとよくわからないけれど多分神力が爆発的に増している!