四百三十八生目 完璧
違う部屋まで到達したドラーグ。
ここは部屋の中でも特別広そうだ。
湯船でもなく寝室でもなく。
ただひたすらに広く奥へ続く空間。
周囲に水流が落ちて行きこの場が特別だということを知らしめているようだった。
中は明るく最高級の魔法灯が照らし続けている。
『うう、影が少ない……まああんまりニンゲンがいないから、隠れて進みます』
『騎士がいないとはいえ、気を付けてね』
白塗りされ複数ある光源に照らされているこの場所はまるで聖なる場所だと示すかのようで……
とにかく影が少ない。
仕方なく影の外に出てふよふよ浮かびながら移動する。
徐々に上へと向かっていく階段状の斜め構造でしばらく続いているのだけはわかる。
奥の様子はまだわからない。
普通の世界でやれないような建築だ。
階段状になっている横にスロープのような坂もありそちらは良く使われた痕跡がある。
なにか台車ではこんでいるのかな……?
ドラーグは柱に隠れつつ奥へと進んでいた。
少しの間それをくりかえし。
そのままやっとそれらしい空間にたどり着く。
横に広がって行き像が多数設置されている。
多くの人々がひざまずいた像たちが道を見守り。
天蓋のような薄いベールの向こう側に区切られた場所がある。
そこにドラーグが近づいていこうとしたそのとき。
「誰だ」
まずい見つかった。
ベールに覆われた向こう側から響く声。
私じゃないからとっさにスキルを借りて"見透す目"でドラーグが見てくれることもできない。
『ひえっ、まずい!』
ドラーグは慌てて近場の像に飛び込み影の中に入る。
今の若い子供の男みたいな声は……?
「アサイ、右の1の像だ。照らせ」
「はい、ただいま」
アサイと呼ばれた女性が天蓋の向こうで動くと灯りが追加で焚かれる。
すると像で出来ていた影が消えて……
ポンとドラーグが無理やり引きずり出せる。
「フカ、もってこい」
「ただいま」
天蓋の向こうから素早く何かがうごいたかと思うとドラーグの目の前に顔をベリーショートベールで覆った女性が現れる。
そして。
「わっ!?」
「失礼」
ドラーグの翼と腕をあっさり抱え込み一瞬で天蓋の前まで持っていく。
早業……暗部の者!?
単なるハレムの一員ではなさそう。
「ひえー!」
「傷つけはしない。今は、まだ」
「なんだ……? 人ではない、とは思ったが」
「トカゲですね、紛れ込んだにしては意図的のようですが」
ドラーグ1%の姿だからまるでそういうぬいぐるみかなにかのようにも見える。
ちょこんと天蓋の前に座らされた姿は外からみたらほほえましいかもしれない。
状況をのぞけば。
天蓋の向こう側にうっすらと見えるのは立っている数人と玉座のような椅子。
そしてその椅子に誰かが座っているようにも思える……
『ドラーグ、最悪アレで抜けて』
『わ、わかりました。ギリギリまで粘ってみます』
ドラーグ1%の姿は弱いものの1つだけ大きい利点がある。
自身そのものを影にして別の姿まで集い10%の姿になるということ。
どういう状況でも使えるため緊急脱出で非常に便利。
「トカゲ、だと……? 幕を開けろ。直接見たい」
「よろしいので?」
「トカゲが苦しむ分には一向に構わん」
「えっ、一体……?」
ドラーグが困惑している間にアサイとフカが天蓋のベールを引っ張って行く。
徐々に中の姿が顕になり……
今はっきりと見える。
それは広間で見た玉座よりも立派。
全体を飾るようなモチーフはなく細々としているのに圧巻。
それに座る主は森羅万象の王だとでも称えるかのよう。
そしてこれを見てしまうと広場にあった玉座は立派なだけのハリボテに感じてしまう。
あちらもすごいのだがこちらはしっかり中身の材質からしてこだわりが違うと感じれる。
ひとめ見て凄いのが向こうならこちらは見れば見るほど惹かれていく……むしろ魔性が棲むとも言えるような玉座。
そして。
そんな玉座に座る者。
あまりに不釣り合いで目を疑いたくなる……そんな存在。
それは完璧な王。
10と数歳程度の見た目ながらこの世を納めてしまえそうなほどの威厳を感じた。
分厚いマントを纏い全身を覆っていてこちら……ドラーグを見下している。
というかあの少年じゃないか?
太い白くキレイなしっぽがあって王冠をかぶってるのは聞いていないけれど。
ごんぶとい竜の尾は玉座の隙間から抜けて横に流されている。
そして完璧すぎるその少年には片脚が……ない。
片脚がなくて完璧……
『ウッ!?』
『ローズさんどうしました!?』
『ウウッ、ドラーグ、それをあんまり見ちゃいけない……何かまずい!』
今私はドラーグ越しだからなにかを受ける前に防げた。
けれど気分は最悪で吐きそうだ。
今こっちはこっちでそれどころじゃなくて追求しなくてはいけないのに。




