四百三十七生目 濁流
王都が……王家が犯人かもしれない。
その可能性がある存在そのものが空気感をヒヤリとさせた。
「ハァー、もういい、奴らの拘束を解け」
「こ、これは王家の権限で……!」
「その王家が、少なくとも関わっている可能性が大きいとされていて、こいつらが捕らえられていること自体がそいつの策略ならば、解かなければならない、良いな?」
「え、ええ……!」
騎士さんがラーガ王子に激詰めされている……
権力と権力の板挟みはつらい。
助け舟を出さないと。
「王様、無礼ながら進言させてもらいます。彼らの解放をするべきです」
「……」
王は深い溜息をつく。
それは落胆か安堵かそれとも……
「禁ずる」
「……王よ、王家の内側に膿がいるのなら、その膿の思惑に乗るのは良くない――」
「禁ずる」
「――なっ」
ラーガ王子の言葉すら一刀両断。
取り付く島もない。
「一応、理由を聞いてもいいか、王よ」
「王の言葉は私が代弁いたしましょう。理屈ではなく、そもそも王家の指示によりラーガ王子の側近が捕えた時点で、意味のない推論よりも罰することのほうが優先なため、先程までの会話は無駄である、とされています」
王様の側に控えていた方……多分王の側近がキサラギに答える。
にしてもひどい切り捨て方だ。
いっそ清々しい。
そして捕えている物々しい騎士たちってラーガ王子の騎士だったんだ。
それを肯定するかのようにラーガ王子の眉間にシワが増える。
「王……!」
「まったく、権力というものは厄介だな。黒も白にできるし、白も黒にできる」
「結構ズケズケと言いますね……」
「アールの名はそれなりに強いからな。こういうとき、権力による最低保障は守ってくれもするわけだ」
「王、それではまるで今回の事件は……!」
「……」
ラーガ王子ははっきりとは言い切らなかったが……
……ん?
あ。やばい。
ドラーグのところがヤバいことになってる!
というかこれもしかしなくても……!
「ん? なんだ……?」
爆発音が響く。
さらに轟音と揺れがした。
「揺れている?」
「地響きのような……」
「み、みんな急いで外へ!」
どんどんと地響きが大きくなっており明らかな異常を感じる人々。
さすがに犯人探ししている場合ではない。
全員何があったと思いながら外へと避難しだす。
揺れそのものはそんなに大きくない。
ただ響く音だけがどんどんとマシてくる。
……私はこの正体を知っているがゆえに急いで全員を避難させるしか無い。
「おい! 王族はどこへ行ったんだラーガ王子!?」
「一回奥へ行く必要がある! 外への抜け道はあるから避難そのものは大丈夫だ!」
「チッ……無事ににげれたかよりも、逃げおおせないかが不安だが、仕方ない」
「うわあああっ!! 濁流だああああ!!」
誰かが叫ぶ。
足元がいつの間にやら水にひたりどんどん勢いを増してきている。
拘束されたみんなも連れてなんとか外には出られたがまだ不十分かもしれない。
「とにかく、逃げ場の有る高台へ!」
王宮の奥から。
濁流が溢れ出してきているのだから。
少し時は戻り。
ドラーグとは念話や"以心伝心"をつかって1番肝心な情報だけはもらっていた。
ついに1体のドラーグが最奥まで達する。
完全に情報と一致していた。
兵もいない扉の奥。
この世の贅を尽くした隠された場所……
『ここがハレムってところみたいですね……より慎重に行きます』
『気を付けて、神の位置もそこらへんかもしれないから、見つからないように男の子が匿われている証拠を撮ってきて!』
「……亜空よ、"ストレージ"っと」
小声でボソリとつぶやくとドラーグは空魔法"ストレージ"により亜空間から写し絵の箱を取り出す。
つまりカメラ。
現場写真に物証それと出来うるなら本人の確保。
それが今回課せられた任務だ。
早速王宮である証拠写真をドラーグは撮りだす。
影の中だと何も写らないのだけは明確な弱点だろう。
カチリと撮影されれば内部の鉱石フィルムに印刷されるとかなんとか聞いている。
ドラーグは写したあとふたたび影に潜って慎重に歩みを進めた。
1つの部屋を覗く。
『あ、ここって、食べ物が有る部屋ですね』
『すごいなぁ……料理名が全然わからない』
『はむ……あ、これめちゃくちゃおいしですよ!』
ドラーグがこっそりつまみ食いしたたくさんつまれたゼリー状の食べ物。
随分とおいしそうだ。
中に魚肉が見えるから甘味ではないだろう。
ドラーグはそのまま影の中を移動して別の部屋へと向かう。




