四百三十四生目 交錯
ラーガ王子がフレイ王女の身内ならではの話をしてくれるようだ。
「アイツは味方を作り多くの敵を生み出す才に長けていたが、その実嫌になるほどの慎重派だった。自身が魔性の女だと言うことは重々承知でどの派閥からどう人を奪い、コントロールし、別の派閥とぶつけ、自らは動かずに決着をつけられるかということに腐心していた。その対象は味方や身内すらも巻き込み、信用せず、貶めた。いつでも突けそうなスキを晒しながら、実際は鉄壁。フレイを崩しに行こうとしていたら、いつの間にか違う相手を崩している。はっきり言えば、構うだけ無駄な相手だ」
思ったよりずっと手厳しかった。
私とキサラギは若干引いている。
フレイ王女の容赦なさとラーガ王子の容赦なさに。
「……ようは、殺されること自体が不可解、嫌がりはするが殺意を持ち出したくない相手ということだな」
「ああ。殺意すらも探られて操られて瓦解させられる。だから実際は、敵意は向けられても殺すことにデメリットが大きすぎて、ほとんどの相手はなるべく考えることすら避ける。そも、殺そうと思って殺せるのなら、とっくにオレが処分している。オレの手すら利用してくるやつが、他の誰かの手にかかるという想像もしがたい。それに今回も結局、アイツは生き延びた」
私が蘇生できるということは公には知られていない。
というより一個人にできるものと思われていない。
つまり犯人の想定外があるとすれば。
「犯人は、私による蘇生は想定外だった可能性の方が高いんですね」
「まあそうだろうな。聖職者たちは今頃大慌てだ。メンツが丸つぶれだからな。ただ、だからこそ違和感が凄まじい」
「ここで殺せば、聖職者が治す。確かに確率は悪いがフレイはまだ若く、今回の傷も毒が殆どで外部欠損がない。十にひとつくらいの確率で確実な蘇生をさせられている。かなりの片手落ちだ、フッフッフッ……何を隠しているんだ? 犯人よ……」
やはりおえらいさんたちは常に蘇生を準備してあるらしい。
ここの王宮自体にも聖堂があるらしい。
聖堂ならば蘇生の儀式も出来るだろう。
「完殺異常により蘇生の封印や、肉体の大きな破損をわざわざ避けるようなやり方ですよね」
「魂を汚染する攻撃もあったはずだ。魂も砕くなりなんなりな」
「なるほど、一般人ならともかく王族や高位の魔物ならば考えられる手はあると……考えられるのは、魂を汚す方法が思いつかなかったか、失敗した、それとわざとしなかったかだ」
「わざわざプロの暗殺者がやっているのに、蘇生の対策を講じないはずがないな。蘇生をされること前提で動いているはずだ」
ラーガ王子が考えついた事を考えすぎだと言い切るには私も材料が足りなかった。
特にこういう場に慣れているふたりが強く違和感を感じているというのが大きい。
私もそっちの方向を考えてみよう。
「ということは、依頼者はフレイ王女を殺したい、とみせかけたい……とかが考えられますかね?」
「フム……踏み込みすぎなような気もするが、なくはないな」
「そもそもそれではより意味がわからない。フレイ王女の死を大きく見せ、ミスディレクションとして利用しその間にやることとはなんだ?」
「ミスディレクション……派手に動いている方に注目を集め、もう片方こっそりと目的を果たすやつですね」
今さっき私がしているようにね!
ただフレイ王女の死は私の利用するものではまったくない。
よりわからなくなってきた……
「仕方ない。推理に推理を重ねて詰まるのは良くないな。こういう時はフレイ王女の死によって何が起こったかを整理するぞ」
キサラギは思考の方向転換をうながし私とラーガ王子は同意する。
「フレイ王女がなくなって……周りの人達がそれぞれ固まるようになりましたね」
「さらに暗殺が有るとさすがに問題だからな。せっかくの式典で貧相なことになっている」
「フレイ王女の側近たちは、さっきまでは愕然としたり剣を出して恐喝したり大騒ぎだった、とオレは聞いている」
まあ護衛対象がいきなり亡くなったらそうなるよね……
まず速攻で犯人探しが始まるはずだ。
そうだ……ここで聞いておかなくちゃいけないことがある。
「なんでアール・グレイさんたちと私達招待客がそのことで捕まったのでしょうか……? 縁薄い相手を捕まえるのは、ずっと違和感があったんですが」
「それもオレが調べてある。話によると、最も間近にいた非フレイ王女派閥がそうだから、だそうだ」
「だったらもう拘束といてもらっていいですかね……犯人が暗殺者で依頼者が別にいるとして、なんで暗殺しているときに依頼人がそばにいるんですか」
「まだだ。というより、我の言葉だけでは興奮しているフレイ王女の派閥を抑えることはできん。彼らにとっては暗殺者そのものを捕えた可能性も万に一つ残された状態だからな。全身を覆った怪しいやつに、ゴーレム。権力者として近づきやすいアールの名を持つもの。どれをとっても怪しいからな」
は……
反論ができない!




