四百三十三生目 猛毒
王はただフレイとラーガは現在王家ではないと告げたのみで口をつむぐ。
相変わらず何を考えているかわからない。
この威圧感のみで場を飲み込んでいる。
ラーガ王子は気を取り直し私とキサラギはかなり苦い顔をする。
だいたい考えていることは同じかもしれない。
本当にこの国のシステムは恐ろしいと。
もっとシステムの悪用をしてゴリゴリの保守かと思っていた。
身内すら出来得る限り近づけずひたすら王と王妃のみが得しているようにも思える。
みんなそのおこぼれをもらうのに必死で……王子と王女は蹴落とすのに必死。
切磋琢磨する環境といえば聴こえは良いが相手を追い込んでどんな不正にも手を染めさせるような環境。
最悪にもほどがある。
行き過ぎた成果主義に差別主義と専制君主制度がくっついて大事故を起こしている。
「はあ、王家の事情はともかくとして、殺されて蘇ったのは本人で間違いないんだよな。一応聞いておくが、能力による擬態や変装、影武者ではないと」
「そこに関しては安心するがいい、この未来の王が五大竜に誓おう。あれは本人だ。しかと調べた」
「本人だということに喜べば良いのかどうかはわからないけれど……本人なのは間違いないと。じゃあ次は……死因だね」
死因ときいてふたりとも話そうとした。
それに互いが気づき目線で牽制する。
やがてラーガ王子が文字通り無視して話し出す。
「聞き込みをした結果、この会場ではフレイは何も飲み食いしていない。まあ当然だな、毒対策の基本だ」
「豪華な食事がいっぱいあるのに、勿体ないですね……」
「オレは気にせず食っているがな。そこらへんは対策済みだ」
「愚民の話などしていない。フレイは飲み食いしていないというのは重要だ。フレイには代わりに細い針のようなものを刺した跡が見つかった。これは検死から明らかになっているな」
「ああ。短い時間ながら調べてあるな」
キサラギが指示してやった検死データは私以外にはちゃんと届いているらしい。
けれど……
「だから、これは暗殺なのは間違いないだろう」
「だが、直接的な死因は暗器ではない。確かに高度な暗殺技術なら即死も狙えただろうが、今回は違った、そうだな、ローズオーラ」
キサラギの話すとおり今回直接死因になったのは殺傷ではない。
だとすれば……
「呪毒、でしたね。おそらく暗器から注入されて血に反応、そのまま猛毒により死んだのかと」
「ただの呪いや毒程度の複合で死ぬほど、王族につけさせられた耐性は甘くはないが……?」
「今細かい成分を調べてもらっているが、おそらくはかなり高レベルの魔物から採取される毒で、いわゆる研究用としか扱われないタイプだ。使えるものはかなり限られるな」
「だとしたら……女、確かお前は毒を出せるのだろう? 事前に提供していたのではないか?」
ちょっと毒という単語が出た時点で警戒はしていたよね。
ただこれに否定するのはわりと簡単だ。
「私の毒を見てもらえばわかります。種類が全く違いますから」
「検査できるやつ、誰か毒瓶を」
花を咲かせるようにトゲを尾先に展開する。
赤いその棘花からは毒がしたたり……
毒ビン受けへと落ちる。
「うわっ!?」
しかし毒ビン受けが凄まじい煙を上げだす。
やがて瓶すらとかして落ちてしまった。
「ごめんなさい、結構強く反応しましたね……まあ、今見てもらったとおり、私の毒は別に血以外にも反応するんです。呪いもないですし」
「ふむ、確かに検証班が採取したさい、物質には無反応だったな。まあそうでなければ、暗器に仕込めないか」
「なるほどな……犯人に近づいたかと思ったが、遠のいたか」
ラーガ王子は私を合法的に処理したがるのをやめてほしい……
飛空艇落とされた原因だろうと睨んではいるんだろうなあ。
そもそもここまで攻撃的になったのも不思議だけど。
「まあ、ここまで統合するにコロシ自体はプロの仕業だろう。毒の提供くらいは行ったかもしれないが、正確に暗器を誰にも気づかれず刺すのは素人では無理だ」
「つまり、依頼主は恥知らずにもこのタイミングで暗殺を狙ったわけだな。まったく、壁は正面から叩き伏せてみろというのに」
説得力が段違いですね!
さすが飛空艇1つ差し向けただけある。
「だから、これ以上どう殺したかを話しても、暗殺者がどう暗殺したかの話しかわかるまい。プロが殺したあとのうのうとここにいることも考えられんからな。次だ。依頼者はなぜこのタイミングでフレイ王女を暗殺したか、についてだ」
「でも確か、フレイ王女って味方と敵がすごく多くて、暗殺される危険性は常にあると聞き及んでいたのですが……」
「フッ、それは上辺だけの評価にすぎん」
ラーガ王子から意外な擁護がとんできた。
もっと血も涙もないと思ったのに。




