四百三十二生目 変化
復活のために放たれる波導は凄まじい。
近くにいるニンゲンたちの何人かは「うう」や「ぐっ」といった悲鳴は聴こえる。
ただとりあえず魔力やられになったり魔力酔いは避けれたようだ。
宙に身体が浮いていたがやがて魔力は収まり地面に降り立つ。
騎士のひとりが慌てて近づきその身を起こした。
「フレイ王女! はっ……息がある!」
「まだ復活したばかりでひどく衰弱していますし、なによりまだ意識もなければ起きたあと記憶も数時間くらいなくなっているでしょう、安全な場所へお願いします」
「は、はっ! ……この御恩は、必ず!」
騎士のひとりはそのままお姫様抱っこで持ち上げて去る。
それについていったニンゲンたちは全員身内だろう。
私の方は……と。
キサラギの近くへ行けばキサラギたち複数名が液体に対してどうこう言っている最中だった。
「何かわかりました?」
「フム……少し見てみろ」
キサラギが小瓶からひとしずく地面の液体に垂らすと……
いきなり叫ぶような影が悲鳴と共に大量出現する。
それはわずか数秒で薄れるが。
「今のは……!」
「生物の血に反応して呪殺する手のこんだ毒だ。これでは毒の抵抗と呪いの抵抗を身につけるもので守っているやつは、内側から食い荒らされて負ける。普通はそれぞれ単独で対策するもので、呪毒のしかも即死級だなんてもの対策しないし、しようがないからな」
予想があたっていたというか予想よりもひどい。
ココまでしっかりと殺すという気概があるとは。
「ひどい……」
「ただ……こいつはそう簡単に用意できない。簡単に足がつくな。犯人も予想外だろう、死体から直接毒を取り出すとは」
悪い笑みをキサラギはうかべていた。
どうやら結構な当たりだったらしい。
「犯人の目星はつきそう?」
「キーポイントはいくつかある。なぜここまでして単なる即死にしたのか。なぜこの場でやったのか、なぜ即国賓組が捕まったのか、なぜオレがいない間にやったのか。そろそろ他も情報が集まる頃だ。フハハ、追い詰めたぞ犯人」
確かにこの人変わっているなあ。
いい意味でこの国の王族っぽくない。
完全に来るべき場所間違えているような人だ。
そのあと部下らしき人々が集まり情報が提供しあう。
さらにはラーガ王子も部下たちを引き連れてやってきた。
彼らも無事情報を集めれたらしい。
三者三様の視線が交差する。
ラーガ王子はラーガ王子で心配なんだよなあ……
どう突飛な答えを出すかがわからない。
「では始めるか、誰がなぜ殺したかの答え探しを」
王はただ静かに見下す。
その場に集ったふたりと私が代表で話をすることとなる。
ちなみに……
「お前はあくまで今回の加害者一族代表として取り扱う。もし今回の罪が貴様らだと判断された場合、拘束させてもらう。そんなつまらんことになりたくなければ、ただしい発言をするのだな」
と脅しをかけられている。
正直今回の場合[自由]称号を使って逃れるのは困難だろう。
なんとかしないとなぁ……
「ええとそれで、何から始めれば良いんでしょうか」
キサラギがまず情報をまとめた資料に視線を落とす。
「とりあえず被害者の話からでいいだろう」
「ああ、今回の殺人、いや殺人未遂はグーラ・アッジガル・アール・フレイ王女、つまり王位継承権2位、オレの直接的な妹にあたる。出来損ないの妹だが、王家としてこの件は侮辱に値すると判断する。犯人は王家反逆罪として一族郎党――」
「王家として、ではない」
「――ッグ!?」
意外なところから声がかかった。
王さまが突如声を挟んだ。
キサラギも疑問に思ったらしいが今の言葉でラーガ王子はただでさえ気難しそうな顔がさらに気難しく歪む。
「……どういうことだ? フレイ王女は当然王家一族であり、勘当されたという話も聞かないが」
「ングーッ……王位継承権の仕組みだ。王位継承権が発生したさいの変化のことを指しているらしい……」
ラーガ王子はまるで自分の事みたいに苦しんでいる。
今言われたことがラーガ王子にも刺さっている……?
王位継承権ができた時に変わることって確か……
あっまさか。
「名前が、変わる? 王家を示すのはバール、王位継承権を示すのはアールで、王位継承権の階級はさすがに王家よりは下だから……」
「……は? まさかバール・フレイの時は王家として扱い、アール・フレイのときは王家ではないとして見ると? いくらなんでも、ソレは言葉遊びでしかないだろう」
「その言葉遊びこそが重要なのだ。我々は王家の者で居続けるためには何だってする、そのためには自らの肉親や子すらも邪魔な相手となりうるのだから、少しでも潰して自分の糧にすることが求められる……」
ラーガ王子は言葉を吐ききって少し落ちついたらしく顔を正面に向ける。
きついな……この国。




