四百三十生目 毒物
アール・グレイの命が最悪かかっているのにバッチリ言葉と態度に出してしまった。
いや妹のはずなのにめちゃくちゃ罵倒する……むしろ興味すらないのが気に障った。
ちょっとためらうのが遅かったな……!
「フン、庶民にどう思われようとさこはどうでもいい。こちらにはこちらのやり方というものがあるだけだ」
ラーガ王子がちらりと視線を向けたのは私……ではなく。
高い場所に未だ座っている王だった。
取り囲まれているもののその目ははっきり見える。
……虚ろ。
我が子を殺されたことに関して何もかんじていないのがはっきりわかり怖気に襲われる。
王妃は姿がわからないがにおいはするので近くにいるらしい。
ただなんら向こうで話しているような声はしない。
ただただ平常時のようにこちらを見下しているだけだ。
私は思わず目をそらし死体の方を見る。
「ほら、お前たち。未来の王として命ずる、この女に蘇生をさせろ」
「正気ですか!? 外の者、しかも殺害疑惑のある一味に触れさせるなど」
「オレもお前らも見ている中で、だがな。しかも直接加害不可能な立ち位置にいたこの女は、少なくともこの場にいて凶行を止められなかったお前らよりは信頼できる。トラッシュノヴァの13、お前もだ」
「トラッシュノヴァって……平然と公共の場で、しかも頼るときに放つ言葉ではないだろう。だがまあ、それに関してはわかった。調査はオレが仕切ろう」
トラッシュノヴァ……たしか下位の王位継承権持ちはラディッシュノヴァだったから。
ラディッシュノヴァの更に下……10から13までの蔑称かな。
だとしたら本当に流れるように使う単語じゃないな。
ただキサラギは捜査に回ってくれるらしい。
今のうちに情報を共有しておこう。
幸い誰もラーガ王子に意見を言えないみたいだからさっさと準備に入らせてもらう。
「アール・キサラギさん、これから蘇生に入りますが、蘇生後は数時間程度の記憶を失うし現場の状況は当然なくなります。この場でやりますが、時間がかかるのでその間に死体付近の捜索もお願いします」
「うン……探偵の真似事はできなくもないが、検死は別だな。誰か、出来るやつを呼ぶしかない。ただ、ここから動かさずに蘇生? そんなこと可能なのか? 聞いたことも見たこともないが」
「余計な妨害さえなければ」
キサラギは懐疑的だが信じてもらうしかない。
というかこの場では全員懐疑的だろうし。
ラーガ王子は意図を汲み取り騎士何人かに声をかけ私の身辺に立たせた。
私は亜空間から1つの真新しい本を取り出す。
これこそ私が必死に作った肝心な本。
世界に1つしかない[自己転生の本]だ。
自己転生の本という名前は聖魔法"リザレクト"の解釈概念において書いた名前。
本を開き魔法を唱えだす。
……"リザレクト"の仕組みはこうだ。
既に抜けてしまった魂エネルギーは次元全体のおおきな世界の奔流に合流する。
完全に同化するとほぼ救出は不可能だがそれまでには時間がかかる。
そこで"リザレクト"はシステムを……死の仕組みを否定する。
私の見方としてはとんでもないだましをしているのだ。
もともと魂は仕組みとしてまた新たな身体に転生はする。
しかしその先は宇宙の……次元のどこか。
それら全ての手順をかっ飛ばしそもそもの誘導先を変える。
君は死んだけど奔流はもう通ったという扱いで何ならそろそろ転生していいよと。
生まれ変われよとして自分の身体に誘導する。
そう。
自分に転生するという荒業だ。
だが字面はともかくかなり現実的に落とし込めるのだ。
というわけで本に魔力を通し剣ゼロエネミーにも通す。
すると本が空中に浮かび高速でパラパラとめくりだされる。
たくさんの文字と紋様が光となって空中や地面に飛んでいき次々と成り立っていく。
よし……次は材料を用意しないと。
「「おお……!?」」
「なんだこれは……聞いていても凄まじい力を感じるぞ」
「とんでもないな、むしろこの力の方が気になるのだが……捜査を始めるか」
気になるらしいがともかく。
私は自分がやることをやるのみ。
うーん……
作業しつつ死体を見るし周りの声も聞いているがやはり毒殺っぽい。
毒はこの世界ではメジャーな害する手段で耐性持ちや回復手段が豊富。
ニンゲンだってクラクラきたら薬を飲ませれば秒で治ることはほとんど。
つまり毒は毒でも即死毒……
ほぼホルヴィロスが出すような毒だ。
突如倒れてそのまま血を吐き死んだらしいのでこれであっているだろう。
よし。最初の段階クリア。
本のおかげで一帯が静寂で聖なる力に満ちた個室という設定に変化させれた。
次からが本番だ。




