四百二十九生目 兄妹
空から飛来する火の鳥。
魔法は間に合わない。
ランダム回避魔法は多分場外に行ってしまう。
この後がわからないので"すり抜け回避"系は初見では使いたくない。
それに……なんとなくだけれど。
ラーガ王子は正面から破って欲しがっている気がする。
むしろ正面から挑んで無惨に敗北してほしい……かな?
私は裏で最速化させた魔法を走らせつつ剣ゼロエネミーを構える。
武技"波衝斬"!
振るった刃から力を込めて太い斬撃の光が放たれ……
火の鳥とぶつかり火花が散って進行が止まる。
「まだまだ!」
「こっちも!」
"波衝斬"が砕けるとそこに剣ゼロエネミーの水弾を当てる。
炎が飛び欠け槍の勢いが緩むがまだ。
土魔法……"Eスピア"!
地面から生えた土槍が火の鳥のくちばし……槍の穂先に当たる!
互いに譲らない衝突。
激しい光の火花が散り……
ついに火の鳥が砕け散る。
「何!?」
ぎ……ギリギリ止まった!
今のはさすがに危なかった。
とりあえず3つ分の強化魔法を間に合わせてのこり1つは……
うん?
ラーガ王子がおちながら腕を捻った。
嫌な予感がして剣ゼロエネミーを盾に変えて……
"鷹目"で見えた。
槍がひとりでに軌道を変えてせまってきたのを。
「危なっ!?」
ギリギリだった。
ギリギリだったけれど防げた。
盾ゼロエネミーが弾けばそこまで威力のなかった槍は弾かれる。
「ほう、今のを防ぐか!」
そしてあっという間にラーガ王子が詰めてきて槍を持つ。
私は魔法を発動させて強化しつつ翻るように横に回って下がる。
2つの刃が今交わる。
「……何!? 待った! 試合中止、中止だ!」
「……なんだと?」
「え?」
ラーガと私の声が重なる。
興が乗ったところ……とかそういうことではないが。
それにしたって今のは別に止めるシーンはなかったはずだ。
それを肯定するかのようにキサラギ審判の顔には焦りのような物が見えた。
近くにさっきまではいなかった兵もいる。
「お前たちが原因じゃない、向こうでとんでもないトラブルだ。そのままでいい、むしろ武装を解除するな、急げ」
駆けながら念話で出来うる限りの話を聞く。
それは……
『殺人!?』
『ええ! 全員が戦いに集中している間に、暗殺が……アール・フレイ王女が!』
『ワタクシたち捕まっちゃってますー! ワタクシたちじゃないのに!』
『うぐ、まさか殺人が起こって……しかもこちらが疑われるとは!』
仲間たちはみんな捕まってしまっているらしい。
ドラーグの身体は10%の姿以外見つかってはないものの……
いいわけではない。
会場に戻れば既に現場は騒然としていた。
そりゃあ要人暗殺ともなれば死ぬほどピリピリするよね!
「さっき言っていたことは本当か!」
「王子! ラーガ王子も現場に近づかないようにお願いします!」
「クソッ、オレが会場にいれば防げたのだが……」
キサラギが気になったことを言ってはいるものの大事なのは……
細かく固まっている集団たちは……違う。
彼らは自身の主人を守っているだけ。
騎士たちが物々しく取り囲んでいるところも今は違う。
あそこにウッダくん含む全員が捕まっているが今はそれよりも……
王子が向かって止められた先。
多くの視線が向けられて……ポーカーフェイスな彼らですら顔をしかめる光景。
血の痕跡。
乱れた布。
倒れ伏した人影。
……王女グーラ・アッジガル・アール・フレイの死体そのものだった。
「通して、通してください!」
「ダメだ、容疑者から外れるお前らすらも、王女のご遺体に近づくのは……」
「そう、今聖職者に連絡をとっているから、時期に蘇生を……」
「アイツラがまともに蘇生成功させたことがあったか!? ちっ、おい女、先程言ったことは本当だろうな」
……やっぱり"観察"してみてももうだめだ。
生命力が表示されない。
生命力0と無表示の差は大きい。
生命力ゼロは生物としての死または瀕死を表している。
この段階なら聖魔法"リターンライフ"で即復活が可能だ。
しかし非表示は死体というモノとなったことを示す。
こうなると通常では呼び戻せない。
専用設備を用いて聖魔法"リザレクト"などを用いて蘇生しなくてはいけないわけで。
大変さや成功率それに本人の劣化等にも影響が出て良くない。
けれど……
「うん、私なら蘇生がまだ可能だよ」
「よし、このような面倒事さっさと終わらせるぞ。些事に邪魔をされて腹が立つ。まったく、暗殺などされおって間抜けめ……」
「いや、兄妹なのにその言いがかりは……!」
思わず口と態度に出てしまった。
アール・グレイごめん!




