四百二十六生目 土塊
私はあのあとマーワルと何分間もの魔法を用いた戦いを繰り広げていた。
私が電気魔法やら聖魔法やらを連続で放っても一通り「ストック」されて「リリース」で返ってくる。
鉄壁は火魔法あたりで削っているものの削った先で場所を入れ替えられなおかついつの間にか生え変わっている。
鉄壁なのにまるで鮫の歯みたいだ。
「燃えて! 空間をねじり! 聖なる輝きよ!」
「リリース、ストック、ストック、リリース……どうかな、自分の魔法で苦しめられる様は」
鉄壁の向こうでマーワルの目が嫌らしく歪む。
うーんいじめるやつの顔だ。
すごくねちっこいほう。
まあ現状派手な魔法合戦ではあるものの手も足も出ていないのは事実。
「先程よりはだいぶマシな絵面だな、どちらも、攻め手の札を切りたくて仕方ないという顔をしているのもいい」
ラーガ審判はとりあえずおとなしい。
先ほどと同じ互いに攻めあぐねている構図なのに派手になっているのはいいことなのかもしれない。
おっと。
よそみしていたら鉄のふよふよ浮いている機雷が近づいてきていた。
わすれないようにしないと。
盾ゼロエネミーで叩き潰すと派手な音がなる。
「おやおや、魔法合戦もいいですが、近くにも注意しないといけませんよ」
マーワルが指を鳴らせばさらに機雷の数が増える。
1つ1つは小さいし威力もないが服を裂くのには十分……
じわじわ攻める手としてこれほど嫌らしいものはそうそうない。
私はさらに電気魔法"チャージボルト"を使って電気をためる。
さっきからためたり使ったりを繰り返していたがそろそろわかってきた。
もっとためていこう。
「そちらから来ないならば、こちらから! リリース!」
また魔法を自力で唱えることと杖からリリースすることの同時発動魔法か!
鋼が部屋のあちこちに生えて大きく刃が抽出されていく。
うーん危険そう。
そして勢いよく鋼の刃たちは射出。
私めがけて降り注ぐ。
普段よりこちらの被弾する箇所は多いから気をつけて……
とにかく盾ゼロエネミーにより危険なやつは全て受ける。
受けるよりも基本は避ける!
転がるように避けるのではなく踊るように避けるという動きが少しわかってきた。
横回転するようにステップ踏んでワン・ツー、ワン・ツー!
「ほほほ! その靴と服で良く避けなさる」
好きでやってるわけじゃあないからね!
このヒールを対戦相手全てに履かせたい。
なんとか全ての刃を叩き落として……うん!?
「しかし、なおさら油断せず全て念入りに叩き落としておけばよかったのですよ」
急激に刃の魔力反応が高まり。
破裂した!
「ほほほほ! これぞとっておき。全方向から攻められて、しかも大量……普通ならこれを受けてもあなたは倒れないでしょうが、今のルールではどうですかな?」
鉄板の向こうでは今の破裂により多数の鋼が手榴弾の破片みた区飛び散ったことしかわからない。
だから……
私がどうなっているかはわからない。
「……"コクーンアース"」
「む?」
私のいた場所を取り囲むように大地が隆起している。
これは私がずっと1つの枠を使って控えさせていた護りの1手。
地魔法……
[コクーンアース 自身や対象の周囲に地面を隆起させて取り込み保護する]
"コクーンアース"の1番の特徴はその硬さだ。
護りに特化しているせいでこちらも閉じ込められるのだが……
前実験した限りでは私の魔法でも簡単には破れない。
「今度は、こちらの番!」
「鋼より堅牢なものなどそんな簡単には……! 向こうで何が起こって……ええい、ならばさらにやるのみ!」
やはりこの状況は見えていない。
完全に安全な状況で"チャージボルト"を重ねる。
とりあえず6連。
外から破裂音や破砕音それに何かができたり壊れたりする音が響く。
まあ"鷹目"と"見透す目"があるから相手が魔法をバンバン放ってきているのはわかるけれど。
「リリース、リリース! う、くっ、聞こえん、聞こえん……衣の裂ける音が、うら若き悲鳴が……!」
この王国の権力者たちは全員何らかの歪みを抱えなくちゃいけない病か何かなのかな?
ほとんど山賊か何かのようなセリフを口にするマーワルを置いてさらに"チャージボルト"を重ね最後の唱えをする。
「ローズオーラ、そこまで籠もるからには楽しませる策があるんだろうな? マーワル、お前の鋼は守ることに向いてはいても、岩盤を貫くことはできないらしいな」
「は、ははっ!? 岩盤……!?」
ラーガ審判のおいかりがとんできたや。
まあ確かに私を覆っているのは岩盤といえなくもない。
そして準備が出来ているかと言われれば今出来た。
魔法の攻撃がやんだ瞬間に覆っていた地面を解除。
土塊の中から私は飛び出る。




