四百二十五生目 砂利
マーワルは多重壁の向こう側でさらに魔法を唱えている。
マーワルはストックを使うことなく詠唱を切ってくるつもりだ。
それに対して私ができるのは……
とりあえず浮遊して移動を少しずつしている鉄機雷には触れないようにしたい。
火力魔法……それに攻撃の組み立ては……と。
頭の中で展開を予想しつつ構築し順番が合うように唱えていく。
精霊さんたちよろしくね!
(うわあめんどくせえ、力技で吹き飛ばしちまえば良いのに)
ドライの考えは十二分わかるが今回はあくまで試合形式かつ私の方は不利条件。
時間も稼がなくてはいけない。
まずは強度チェック。
"フレイムボール"の火を赤……青……うん。
青で良いな。
紫はまだやめておこう。
そのまま炎を私の前に集めて……
一瞬濃縮。
そして放つ!
このぐらいの威力ならば合計20発行けるかな。
威力を高めるのはともかく効率という面ではまかせてほしい。
2つの手のひらから次々と炎の球が飛んでいく。
そして鉄板にぶつかると激しい爆発と共に上へ炎柱が上がった。
連続でどんどんと上がっていく。
おや。
次々と炎の上がる位置が奥になっている?
最後の1発がヒットして……
視界が晴れる。
私達を隔たっていた直線上の鉄板たちはほとんどが見るもむざんな形に歪められる。
そしてその先にはほんの少しだけ垣間見えるマーワルの姿。
「ほほう、【鉄壁】のマーワルを一瞬で顕にするとは。さすがですね。しかし……」
私がさらなる魔法を放とうとすればガシャンと音がなる。
鉄の壁たちが横にスライドした!
壊れたところとそうでないところが入り乱れる。
ただ壊すだけではだめと……
「うーん……」
「わたくしの鉄壁は簡単に破れるものではありませんよ。そして!」
おっと普通に魔法が飛来してきた。
空から撃ち出されるのは鉄のくさび。
結構大きいし数もある。
落下してくるのを見て剣ゼロエネミーを変化させつつ走る。
「さらに、リリース!」
唱えた魔法にプラスしてさらに鉄のくさびが増えた!
疑似的な"二重詠唱"ができるというわけか。
けれどこちらも負けてはいない。
一斉に地上へ降り注ぐくさびたちはもはや地面を穿つ雨。
狭い範囲内だからこそできる丁寧なゴリ押し。
やがてあたりには破砕音のみが響き……
「さて、さすがに避け場はなかったと思いますが……」
おそらくあちらはあちらでこっちの様子をうかがい知る方法がある。 そして今の感じからして視覚ではないのはわかった。
だとしたらニンゲンが頼りやすく遠くのものも拾えるのは……聴覚かな。
私は盾と化したゼロエネミーを空にかかげていたのを引っ込める。
展開時にのみ巨大化させられるから案外使いやすい。
くさびなら弾けるようだ。
まあでも生命力にも響かないくらいだったからよかった。
「今度はこちら!」
私は土魔法"アースレイン"を発動する。
彼の空から大量の土砂が現れた。
土ならまだ良いが砂粒は普通に痛いぞ!
そしてなによりの問題は逃げ場は向こうにもないということ。
「なるほど、では……」
そう話せばマーワルは空に背を向けて屈む。
すると背中にあった壁は自動で移動し……
天からの土砂を受ける形に。
「ストック」
そして……土砂を壁が食べた。
正確には光に分解され吸い取られた。
……あれが突破しなくてはいけない正真正銘の壁。
1度見ておきたいと思って使ったけれど攻撃能力の薄い魔法でよかった。
――『相手の魔法は全てストックできるようです。ただ、その上限はわかりません。あらゆる魔法を拾い集めているという話は聞かないので、あくまで他人の魔法は一時的にしかできないのかもしれませんね』
アール・グレイの念話が呼び起こされる。
言うのもなんだがさっきのフルーエよりしっかり強いな……
「それでは、お返ししますよ。リリース」
掛け声と共に土砂が今度は私の真上に発生する。
攻撃能力はないので素直に盾ゼロエネミーを傘にした。
バラバラと音をたてハデに降り注ぐ。
やがて私の周囲に土砂の山ができてしまった。
跳んで土砂山の上に登る。
服が砂だらけにならなくってよかった……
「よし……だったら」
手は多数見えた。
道筋もクリアになってきたしあとは……
その中でとにかく時間をかけつつも攻める姿勢を取るだけだ。
とにかく電気魔法"チャージボルト"を重ねつつ聖魔法"パニッシュメント"を放つ。
マーワルの頭上に雷みたいな極光エネルギーが降り注ぎ……
それを壁で受ける。
「ストック、そしてリリース」
さらに私の方に魔法が返ってくる。
わかっていれば簡単なので"すり抜け回避"を使いつつ避ける。