四百二十四生目 鋼牙
ドラーグの探索そのものは順調。
ただ摘発するのに肝心な違法風俗が見つかっていない。
……こう書くと小さく見えるが実際は国民を揺るがす勢いでとんでもないものなのだが。
私は整えてから再度戦いの場につく。
アール・グレイの説明を念話で聞きつつ今度の相手は……
「先程の戦いでは、貴方様にお見苦しいところを……口直しというわけではないのですが、ぜひ、わたくしマーワルと踊っていただけますかな?」
今度の相手は国内大会3位の実力者で紳士のおじいさん。
ぶっちゃけ言われなければ執事長さんかと思ってしまう。
王の臣下で得物は……
「変わった杖ですね……」
「やはり、自分の杖というものは変わっていなくては。貴方様も、変わった杖をお持ちのようで?」
「ええ、ゼロエネミーは剣としてつかうことのほうが多いですけれどね」
私の場合私の心臓部……胸の石を杖のコアに見立てて放つほうが魔法としての効率は断然良いからね。
それはともかく。
マーワルの背後にある杖。
それは一種の壁に見えた。
しかし壁の中ではたくさんの歯車が忙しくなく動いているのが見えて……
上側中央には目のように宝石コアが輝く。
そして重要なことは彼の動きに合わせて杖も浮いてついてくるということ。
見た目の大きさ以上に侮れない。
少なくとも先程みたいに武器投げれば勝ち確定ではなくなった。
ただ……
「マーワルさんの杖、見た目的にフルーエの壁砕きに弱いように思えますが、それでもフルーエより上なんですね」
「勿論。そもそも、彼が壁砕きを習得したのはわたくしへの対策ですから……まあ、わたくしという壁は、まだ崩れていませんがね」
「では、構え!」
互いに所定位置につく。
フルーエが壁砕きを覚えたのはマーワル対策……
それでもマーワルは勝っているということはまだ手の内があるということ。
幸いその情報は念話でアール・グレイが教えてくれる。
構えてはいるものの互いに自然体。
魔法を使う時ガチガチに身構えていたら視野が狭まり選択を誤る。
同時にスキがないようにするのは多少苦労するけど。
「はじめ!」
「リリース」
来た! 彼が使う初見殺しは……
私の頭上と真下にエネルギーが走る。
魔力として形を成し……
地面が抉れるように弾かれ私は宙に浮き……
金属の地面と天井が歯を伴って襲ってきた!
「ううん……!」
素早く腕からイバラを出す。
これ初見で避けるのは本当に難しい。
教えてもらえてよかった。
イバラをバネのように使って即弾く。
脱出して背後で鋼の顎が閉じるのを聞いた。
危なかった……
「それが噂のイバラ……どうやら微力ながら少しは楽しんでいただけたようでなによりです。では……リリース」
私が地面に降り立てば今度は大量の壁がせり上がる。
全てが鋼でできていて上から見たら複数枚の層が用意されている……
これを正面突破するのは割と正気ではない。
――『リリースという単語が聞こえたら警戒してください。彼は事前に長い時間をかけて杖に多くの魔法を仕込んでいます。リリースはその合図で、彼の魔法が戦闘時にほぼノーリスクで放たれます。言葉も、正直聞いているタイミングはもう発動時のため、避けたり止めたりは無理でしょう。最初は上下に挟んでくる鋼の魔法を、その次は壁を多重に展開するのがセオリーです』
脳内に思い浮かぶアール・グレイの言葉通り展開が進んでいるけれどあんまりうれしくはない。
向こうは正直言って私を倒す気がないとわかったからだ。
私はかんたんにペナルティを取られやすいが向こうはまったく取られない。
このまだと私が消極的行動でペナルティ取られる……
空も行かないほうが良いだろう。
広範囲破壊魔法や行動もできないと踏んでやっているのだからたちが悪い。
それこそ向こうは私にちょっと傷をひっかけて服を破けば勝ちなのだ。
とりあえず私は自身に再度7連続防御系魔法を使ってと。
これで少しは落ち着ける。
壁の向こうを"見透す目"でみつめればマーワルはその目を細め歪めていた。
「さあ……淑女の方には、舞踏会にお帰り願いましょうか」
ボソリとつぶやかれる悪意。
うーん……なんだかこの人もこじらせていそう。
魔法勝負となると剣ゼロエネミーは盾として使いたい。
ともすれば……
向こうのストックが先に尽きるか私に魔法が2回以上被弾するか。
そして当然。
「さあ! 壁の向こうにいるからといって、そこが安全地帯にはなりませんよ!」
向こうもストック以外の魔法も放ってくる。
鋼の小さなトゲトゲした塊たちがいくつも宙に現れだす。
微妙に移動している……嫌らしい配置だ。
見た感じ触れると爆発するタイプ。