四百二十三生目 正気
バトルアックスをすくって弾き飛ばした。
「んなっ!?」
おおできた。
あんまり対人をしないから出来るかなと思ったけれどちゃんとできてしまった。
バトルアックスを場外に弾き投げた。
たちあがったけれどそりゃあもう遅い。
バトルアックスが剣ゼロエネミーぐらい特別でなければもう素手しかないだろう。
残念ながら戻ってくる気配はないが。
フルーエはわなわなと震え……
キッとラーガ審判の方を見る。
「審判! 止めてくれ、ワタシの斧が飛んでしまった! 回収までの時間をくれ!」
「……騒ぎ立てたいことはそれだけか?」
「な!?」
ラーガ審判の方はというと……
不機嫌が最高潮に達していた。
「最初に、話したよな? 卑怯な手口は認める、細かいことはそのつど話す、と。よもやそのぐらいの言葉すら忘れたわけではあるまいな? ちんたらとつまらん戦いをしたあげく、審判に、オレに意見するだと?」
「あっ! い、いえ……」
「この場ではオレが王、王に直接意見するなどと、随分と偉くなったものだな……フルーエ!!」
迫力がとんでもない……
肝心のフルーエは私の前で棒立ちになり姿勢を正して固まってしまった。
ここまで威圧されるのはちょっと同情する。
「よって、審判を決める。ここから……何もしない」
「……えっ?」
「これから、お前に何が起ころうと、オレが知ったことではない。女が何をどう戦いその結果お前がどのような肉塊になろうが、知ったことか。試合が簡単に終わると思うなよ」
「なっ……!? え……!?」
フルーエも愕然としているが私も驚いた。
つまりフルーエの処理。
かなりひどいな……
ただ殺すつもりはもちろんない。
「キミはどうする?」
「……え?」
「立ち向かうか、逃げるか」
「あ、うあっ……クソおおおっ!!」
殴ってきて振りかぶる。
つまり戦闘意志はある。
引いたらどうなるかわからないからという面はあるけれど。
その顔は焦りに満ちてまっすぐ突っ込んでくる。
そのまま私の方へ来たところを正面から受ける。
腕を取りそのまま後ろへ回って。
武技"正気落とし"!
相手の頭に剣ゼロエネミーの腹を叩き込めばうめきと共に怯む。
生命力はたっぷりだしやはり1発は無理だよね。
相手も武人だからキッと見返してくる。
「なんでだあああ! うっ!」
"正気落とし"!
頭狙いなのはバレているから今度は腕で防がれる。
とはいえ正気落としの効果は相手を傷つけず気絶させるやり方。
痛くとも怪我は負わずそして気絶の振動は叩き込まれる。
その証拠によろめいた。
……あまり情けをかけると逆につらいな。
"正気落とし"!
「があっ!?」
"正気落とし"。
「どうして……」
正気……落とし!
「情報と違う……ゲフッ」
正面の腹に私の掌底が叩き込まれた。
バタリと相手は倒れた。
やはりなかなかの強敵だった。
眠るように落ちたため動く気配もない。
「なんだ? まさかそいつ、もう倒れたのか? ふん、生きてはいるが、ここで手打ちか……いいだろう。フルーエ、戦闘不能! よって、勝者、ローズオーラ!」
クリスタル状の魔術具でつながる向こうでは歓声でも上がっているのだろうか。
意図的に繋がないと声はこちらに流れてこないらしくわからない。
ただラーガの掛け声と共に職員らしきニンゲンたちが来てフルーエとバトルアックスを運んでいった。
「かなり手加減していただろう。まあ、やる気がないというより、その服のために見えたが……」
「正直、着替えたいですね」
「許諾できん。この後、整備のための時間を設けるが、お前はそのまま続行だ」
だよねえ。
言ってみただけだけど。
あくまで目的は変わらないと。
ならば私は私のやることをこなすだけ。
一旦控室へと戻っていった。
そのころドラーグは。
『うわあ……だいぶ手にあまる情報が……』
『え!? そんなこともしていたの!?』
ドラーグがたくさんに分かれて探索していてくれるが……
徐々に出るわ出るわの不正。
まあ不正なのかはたまた法が捻じ曲げられているのか。
どちらにせよ立入禁止の部屋ひとつひとつに隠す程度に罪悪感を感じやすいものがある。
諸外国と人身売買で繋がっているものとか各領地に課す税が毎年それぞれダーツで決めていそうなくらい雑だとか。
今回大河王国が目立っただけであって世界中にあるんだろうな……
『それで、肝心の奥地ってどう? それっぽいところある?』
『うーん、まっすぐいければ多分という方向はあるのですが……』
ドラーグの影を通るという都合上壁は貫けない。
ついでに空から天井を貫いて移動することも。
潜入じゃなければどちらもできるのだが……