四百二十二生目 殺意
私が試合の不正に怒っているそのころ。
ドラーグとも念話で繋がっていた。
『そっちの様子はどう?』
『あんまりにも予想以上で驚いています……警戒はそこまでではないのですが、そもそも警戒なんて置く必要が薄いかもしれません。間違って侵入した相手がいたら、もう帰れませんよー』
最初はいってきた時に呆れるような迷宮構造だったのはともかく。
やはり空間的な魔術加工も豊富だったらしい。
建築物状の人工迷宮と化している。
空間を魔術加工で捻じ曲げ広げて特別な空間に仕立て上げている……
元々外観からではわからない作りになっていたがもうこうなったらわけがわからない。
頼りのアール・グレイくんも、
「かなり必死に行き来してなんとかたどり着いただけで、詳しくは……それに、細かく王宮奥は配置や回路の変更をするらしく、あの頃の知識は役立たないかと……」
と、肩を落としていた。
まあ全域調査が目的だから最短ルートだけの探索は必要ないのが幸いか。
思考は私側に戻って。
主観より"鷹目"で見る方が斬り合いはわかりやすい。
斬り合いによりすでに何度もバトルアックスを弾いていた。
「ばかなっ、力負けっ、しているっ!?」
なんかいいかなもう……って。
さっきまでは丁寧な時間稼ぎだが今はどうせなにやっても判定でこちらが勝つことはないでしょと。
とにかく判定で負けを取られないように堂々と斬り合う。
結果として何が起こったかといえば相手の腕関節がだいぶしびれてきたらしい。
先程から動きが良くない。
必殺の壁砕きだけは絶対に避けるようにしているので余計に。
「まったく、試合が停滞しているぞ。そろそろ決めに行ったらどうだ?」
ラーガ王子が無責任な事を言うがラーガ王子のせいで何度か決まったはずの瞬間にまったく判定が入らなかっただけだ。
ただ今の言葉でフルーエは顔をひきつらせる。
恐怖が垣間見えるようだ。
「た、ただいますぐに! いい加減、死に晒せ!」
「それはもう試合じゃないよ!」
殺意込めて武器を振るうのは良いけれど殺意が口から出てしまってはいけない。
それはスポーツマンシップというやつがない。
まあそれだけ必死なのだろうが。
ガンガンバトルアックスと剣ゼロエネミーがぶつかり合い立ち位置をこまめに変えているせいで今度は私がライン際に来ていてる。
多分私はラインを踏んだだけでアウトだ。
「ぜいあっ!」
相手は武技も何種類も使っている。
今目の前で繰り広げられたのは黄色の光と共に前進しながら横へ薙ぐもの。
範囲と押し切る力が強い。
風を断つ轟音が響く。
私はまともに受けないように気をつけながらゼロエネミーで受け弾きつつ……
こちらも武技。
「"回転切り"!」
かっこ小かっこ閉じる。
いつもより威力控えめ。
回転して私の周囲に光1回転残す割ときれいな技だ。
ただこれ主観視点だとこれほど使いにくい技もない。
視界がぐるぐるしちゃってよく見えないからね。
"鷹目"いつもありがとう。
「うぐっ!?」
"回転切り"の威力にフルーエは一気に押し戻される。
バトルアックスで受けたものの……
それはそれとしてかなりしんどそうだ。
盾でもないもので受けているから生命力自体も削れている。
そりゃ威力を削ぎきれないからね。
ただ生命力削りで勝つつもりはない。
あくまで安全位置確保とハデな力だ。
なんか退屈な試合をしていると多分こっちにペナルティ入るから……
というわけで距離が取れたここで。
剣ゼロエネミーを敵に向ける。
フルーエが身構えるが……
少しやることはおそらくデータにないこと。
この剣ゼロエネミーの力。
光が水のようにうねり……
先から水の光が固まり放たれる。
水弾だ!
「何!?」
さすがそこは武人か。
嫌な予感がしたらしくすぐ身を翻して避ける。
水弾はそのまま壁に向かって飛んで……
ゴウッと響いて壁に穴が穿つ。
フルーエの顔に汗が1つ。
良い判断だけれど……
「まだ!」
「うぐっ!?」
もちろん1撃だけではない。
ちゃんと避けられたならばまた撃つのみ。
次々と飛んでくる水弾をフルーエは跳んで転んで避ける。
そこに対して今度は地面に向けて放つ。
体勢を崩していたフルーエは思いっきり地面からの破裂を喰らう。
「ぐうっ!」
そのまま勢いよく転がり受け身を取って再度駆けた。
あれだな……まるで私がみんなと戦う時みたいだ。
だからわかる。
「武技、"すくい上げ"!」
剣ゼロエネミーを刺しこんで。
バトルアックスだけ引っ掛けて……
そのまま光が導くまま浮き飛ばした。




