四百二十一生目 苛立
私はフルーエと打ち合う。
斧による武技壁砕きは最悪だがそれ以外ならばどうとでもなる。
特に今は服を防御加工したし私の力を通しているから飾りのリボン1つとっても圧倒的に破壊されにくい。
つまり。
「今度は私から!」
「さあ、その獣としての中身を見せごあっ!?」
何か言っていたがひと振りわかりやすく縦に斬れば口をつむぐ。
当然斧で防がれたけれどこちらが砕かれていないので喰うモードは発動しない。
そしてこの羽根より軽く思える剣はひとふりで終わるわけがなく。
2対。
3連斬。
4乱打!
「ぐあっ、まっ、さっきと! 力が全然……違う!」
「斧の攻撃のほうが絶対重いわけじゃあないからね」
とりあえず今10連斬りくらいしたかな?
そろそろ反撃されそうだし舞うように下がる。
当たり前っちゃあ当たり前だがドレスって踊るためにもできているんだね。
今舞うようにしたら伸びやかに動いていくれた。
なるほど……ただ硬く振るうだけじゃなくて柔らかに……
よし。少し修正してみてと。
剣ゼロエネミーにたのんでいることは。
斬られない。
斬らない。
さっきからの感触として押し込めば斬れてしまうなと思っている。
剣ゼロエネミーが寸前で止めてくれているだけだ。
向こうはバトルアックスによる喰らう力のおかげと思っているようだけれど。
当然切り落としたら試合が終わってしまう。
それはこう……色々と違うわけで。
時間稼げてないわけで。
なのでとにかく当てて派手に火花散らしてと繰り返している。
そろそろ武技も使っておくかな。
「……つかれてませんか?」
「はぁ、はぁ……ぬかせ!」
フルーエは強がって吠えてはいるものの明らかに肩で息していた。
ただそこはさすがに戦い慣れしているもの。
直ぐに息を整えこちらに駆けてくる。
若干足取りは重そうだが駆ける速度を控えて短期的なスタミナを温存しているだけだろう。
特にバトルアックスは重そうだから最速を詰めて動く必要はない武器。
まあ剣ゼロエネミーは向こうからしたら斧以上に重いかもしれないが。
剣ゼロエネミーは私やメンテの相手以外にはめちゃくちゃ重たく感じさせるらしい。
凄まじい重みで切り抜くわけだからきついだろうね相手は。
ついでに私の筋力分も足したし。
バトルアックスは見るからに重く横振りにすら時間がかかる。
だからこそ先に刺せると見えるが……
そんなのは斧の使い手がわかっていないはずもない。
つまり今目の前の振りは誘いであり攻め。
「これっ!」
剣ゼロエネミーをふりかぶれば待っていたと言わんばかりにバトルアックスの軌道が変わる。
代わりに振るわれているのは腕。
そう……担いでいる時は片手だからこその芸当。
もちろん私は私で相手の誘い待ちに飛び込んだ時点で食い破るつもりでいる。
腕にはもちろん。
「そこだ!」
「どうかな!」
「何ッ」
彼の腕を手のひらで掴む。
こうなれば後は簡単。
バトルアックスが当たらないように回り込みそのままフルーエの腕を彼自身の背中側へと回していく。
このままテンポよく回りまわって。
「まっず……!」
勢いよく腰を捻って足を当てて投げる!
さっきからめちゃくちゃ動きにくいヒールでの蹴りをくらえ!
フルーエの膝裏に当たってわずかに浮いたところを引っ張り。
ポーンと面白く飛んだ!
「うそおおっ!?」
何重にも態勢を崩したせいですぐには立て直せない。
予想通りの軌道を通って場外のラインまで吹き飛ぶ。
そして背中側から落ちた。
あれは痛いだろうな少し……
武技を使いたかったがこれで――
「まだあ!」
――うん?
今無理やり勢いよく跳んで転がるように立ち上がり場内にはいったけれど。
審判? ラーガ王子??
いやなんだかすまし顔をしたままなんだけれど。
王子! 王子!!
『な!? 今のはどうみても出ていました! 審判は止めないのですか!?』
『だめ……みたいだね』
ラーガ王子は公平な審判はしないとは思っていた。
それがここまでとは思わなかったけれど。
クリスタル状の魔術具で向こうから改めて何も言われないということは王あたりも承知の上か。
フルーエの口元が歪む。
……よく考えればこれ他者を裸にひん剥いて遊ぼうみたいなやり口じゃない?
今更ながらそれってどうなの? という怒りが地道にたまってきた。
とりあえず1回だけ1本とって有利とろうと思ったがやっぱり本来の計画にしよう。
相手が気絶するか降参するまで叩き込む!




