四百二十生目 破槌
フルーエの懐で武技を発動させる。
「なっ!?」
「せいやッ"正気落とし"!」
私は全身に光を纏い身をひねらせて。
回るように剣ゼロエネミーを振り抜いて大上段。
汗1つでフルーエは態勢を変えて柄の部分で受け止める。
「っく危ない! なんでも斬る刃と謳われていたが、さすがにこの斧までは斬れんか!」
よしよし。
私はリビングアーマー含む師匠たちみたいに剣術で相手の攻撃誘導なんてできない。
ただかわりにやられると嫌な動きはわかる。
嫌な動きをやられたら対処さなくてはいけない。
嫌なタイミングで派手な動きをしておく。
しかも服が壊れない範囲で。
そしてダメなタイミングではけして致命打を叩き込まないと。
これはまあ盛り上がっただろう。
バックして跳んでもラーガ審判は何も言わない。
よし続行。
ついでにこのタイミングでと。
「よし"シールド"。"ビアースタミナ"。"スタッドボーン"。"クラッシュガード"。」
光に聖そして土と土。
"二重詠唱"で服に対して念入りにかける。
私はそのおまけで受ける。
普通は逆なんだけれど今は気にしない。
全身を覆う光の結界に淡く輝き服から光立ち上る。
私の全身が一瞬土色に変化したかのような光が覆いさらには足元から一瞬で全身を土が覆って見た目上は消える。
「ほう……」
「今のは、防御系の魔法4連打したのか!? バカな、噂には聞いていたがこんな……!」
精霊たちがいるからね。
でもごめん。
7連打です。
"二重詠唱"の効果で重なっている。
"クラッシュガード"だけは重ねられず最新の1発だけだ。
ただこれで服が壊れる事故性はグッと減った。
「どうする? 突破できるか?」
「フフッ、それは分かっていっているのでしょう? この【壁砕き】のフルーエに対しての言葉なのだから!」
また詰めてくる!
こちらは魔法を唱えておいて。
……フルーエの構えが変わった!
肩に担いでいた斧を両腕で持ち下げる。
これが話に聞いていた技か!
――『もし彼が両腕で斧を持ち下げたら、絶対に避けてください。彼の称号にもなっている壁砕きという武技が来ます。その技は相手がどれだけ頑丈でも関係なく、頑丈さを無視して傷を与えます。昔、実際に大盾を構えた相手を大盾ごと斬り裂いたのを見たことがあります。致命的に生命力を奪うわけではないのですが、武具に致命的な傷を与えます』
あの時の念話が脳内ではっきり再生される。
防御無視の1撃を与えるのか。
つまり当たったら肉で直接当たるしかない。
動きは……
「はぁっ!」
横からの小振り。
違う。
剣先で受け流しつつ避ける。
「ハハッ」
下段から振り回すように斬り上げ。
教えられた動きと違うので剣ゼロエネミーを使い受けるようにして逃れる。
「捉えた!」
勢いのまま地面から跳び上がりバトルアックスが光に覆われて巨大に見えた。
これだ!
いつもならジャンプしつつ翻るようにして後方へかわす。
けれど2つ無理なことがある。
それをやると服にダメージが行くのと場外になりかねないのと。
なので今やることは。
足にグッと力を入れて。
前へ飛び込む!
「ハッ!?」
相手も今まさに振り下ろされる真下に飛び込まれるとは思わなかったのだろう。
当然スレスレで通らせてもらうけれど。
ドレスがめちゃくちゃ引っかかりそうで怖いんだよな!
でも姿勢を大きく変えたら絶対布が嫌な音を立てる。
コルセットだって正直かなり体に響いてきていた。
動きにくさが半端じゃない。
そのまま向こう側に抜けて向き直る。
相手は豪快に地面を砕いていた。
着替えは無しなのなんというか強い悪意があるなあ!
「なるほど! 面白い」
フルーエはふたたび肩に斧を担ぐ。
……斧が不気味にうごめいていた。
ついた地面を食べている。
食べるというのは比喩的な表現。
震えていると斧の中についた元地面の土が飲まれていく。
あれが壊したものを片っ端から食べてしまう魔斧か……
「地面だとあんまり美味くないんだよなあ……」
脳裏にあの時の念話が思い浮かぶ。
――『武具は出来得る限り壊されないでください。壊した武具は斧に取り込まれ、帰って来ません。その上、食べれば食べるほど一時的に切れ味が上昇し、より恐ろしくなります』
つまり最悪の組み合わせだ。
この組み合わせは間違いなく狙ったものだろう。
油断すれば私の剣ゼロエネミーやドレスはアイツに食べられる。
それだけは絶対に避けないと。




