四百十八生目 定款
そう。
あれは少し前のこと。
余興があるとされ大人数で移動することとなった。
ただ違うのはあくまで移動したのは戦えそうな者のみ。
広場には空間に映像が映されている。
そしてこの闘技場には大きなクリスタル状の魔術具が設置されていて……
対となるものがパーティー会場に置かれる。
会場には立体的な私達の姿が光で再現されているそうだ。
まさしく魔法技術の粋……
こういうタイミングでなければじっくり観察したかった。
『……製作者ローズオーラ、委細を記録しておきますか?』
『……あ! なるほど、ありがとうノーツ、よろしく』
ノーツの丸眼鏡はまだつけている。
どうやらずっと見ていたせいで念話によりたずねられたらしい。
後の楽しみが増えた。
それはともかく。
なぜか私に手荷物検査で渡した剣ゼロエネミーが渡され。
闘技場の中に立たされ。
相手と向かい合った。
「体を動かさない……貴族のやりとりは退屈だろう。幸いにも、似たようなものは多くいる。ローズオーラのような者に挑みたいというものが。ぜひ、軽く手合わせしてくれ。服は後で縫い直し、整える……そこまで気にはするな。まあ……壊れたら……人と魔物との融和の心は、まだ遠い、と感じるだろうが」
クリスタル状の魔術具から王の声と顔が流れてきた。
その時だけはなんとなくわかった。
まさしく冷ややかに笑うかのような態度。
さっきのか!
さっき一瞬私が抵抗して座れなかったからか!
……時は今に戻る。
私への嫌がらせ疑惑はともかくとして。
服はリメイクしなおすとはいえなるべく破壊されたくない。
借り物だし!
そしてこの服である関係上私は大きく可動域を制限される。
4足型含む他の形なれないしイバラ生やしも難しい。
ここにいる者たちは私がアノニマルースからきた魔物だと知ってはいるけれど同時にあんまり気に入らない者も多いハズ。
私が帝国に組みしたから。
私がアール・グレイに組みしているから。
私が魔物だから。
そんな時に私がなんでもありの乱闘しまくれば私のことや辺境伯たちそれにアノニマルースも所詮魔物のものと蔑まれる原因にもなりかねない。
王がわざわざ忠告したぐらいだしね。
まあ……忠告というよりも面白がっての警告かもしれないが。
アール・グレイばかりが大変かと思いきや私がいきなり政界の渦に叩き込まれてしまった。
いろいろ口で反論したいが残念ながら今やり取りするべきなのは目の前。
武器を構える目の前にいる相手。
「ワタシは大河王国最強の四天王がひとりフールエ。本当に魔物なのか……? それすらもよくわからん。悪いが、あんたのようなやつをただ言葉で聞いただけでは、実力も信用も納得できん。切り合いで本性が出るでもよし、そうでないのなら、見せてくれ!」
得物は巨大なバトルアックスか……
上と下どちらも刃があり重たそうだ。
持っている男性であるフールエは紳士服に身を包み細そうな背丈を表している。
ただ1番大事なのはその中身。
においや音それに見た時の動きから察するにかなり鍛え上げられていて筋肉が均衡をとれている。
確か……そう。
「あなた、たしかフレイ王女の側にいた……」
「ああ。フレイ王女の身辺警護も務めさせてもらってる」
やっぱりそうだった。
ということは……実質フレイ王女との対決か。
フレイ王女はこちらを探れない以上こうして別角度から探すつもりか。
『ローズオーラさん、大変なことになりましたね……まさか国賓にこんなことをさせるだなんて』
念話は繋ぎっぱなしだからアール・グレイからもくる。
『ええ……しかも周りからの言葉を聞く限り、私が負けても、私がはしたない姿を見せてもダメみたいですね』
『正直かなり小賢しい手だとは思いますが、それほどまでにローズオーラさんの心を試し、力を恐れているんでしょう。その服はもしもの時を考えて、壊れにくく強化は施してありますが、追加でローズオーラさんが強化していったほうが安心できると思います』
『なるほど……服自体に強化魔法を。わかりました、見守っていてくださいね』
『はい……こちらも、やれることはやります。最初の相手は――』
念話で情報を聞きつつ私とフールエは互いに枠内へ入る。
中央あたりにラインとさらにそこから外枠との間にも短くライン。
フールエが短いラインで止まったので私も合わせる。
さらにひとり歩いてきた。
ってええ!?
ラーガ王子だ!
ラーガ王子は枠外に設置された高台へ行き椅子に座る。
今一気に私の中で不利なのが決まった。
公正なジャッジなんて存在しない……か。
「詳細なルールを伝える」
ラーガの顔が恐ろしく歪んだ。




