四百十六生目 挨拶
王宮内はざっと調べたところかなり複雑に遮られている。
特に奥へいけばいくほど結界や偽装で丁寧にスキルごと防いでくる。
私ではちゃんとした探知は難しい。
ただドラーグは別だ。
ドラーグの種族的特徴として影と闇に溶け潜むというものがある。
見た目からして黒いがそれだけではなく体を完全に影の世界へ入れてしまえる。
影の世界は基本的に探知不可能だ。
知っているかピンポイントで対策しなくてはいけない。
ただそれは入り込む虫を防ぐよりも難しい。
お茶をたしなんでいる間にも90体近いドラーグが王宮を徹底的に探索している。
果たしてどれだけの情報が出てくるかな?
「そろそろ、王が来られます」
「あ、わかりました〜」
「いよいよですね」
「うん。吉と出るか凶と出るか…、」
執事さんに言われ身支度を整える。
ドレス……ドレス!
本当にドレスって大変だね!?
今までお偉いさんがたのドレスコードは何度も見たことはあったけれど……
自分が着込むとなるとだいぶ話が変わってくるね。
1つ座って立つ動きだけでも結構整え直しされなくてはいけない。
なにより体がかったい!
無理に動けばすぐに壊れてしまいそうだ。
リメイクをするとはいえ壊すのはよくない。
そもそもこれからが本番だしね……
と。
やっている間にも会場の雰囲気が変わる。
どうやら王たちが来たらしい。
照明の配置が変わって行き玉座に光が集中するように直される。
号令がなくとも状況はわかりやすく静かになって。
闇の中からその顔が歩み出る。
顔は厳格そうで髭で口元が覆われるほど。
おそらく限界まで手入れされていて毛先1本までまとめられ持ち上げられている。
体は痩せぎすに見えるがそれを分厚いマントや服装で覆い尽くし隠している。
さすがに私のようなタイプだとわかるけれど一見しただけだとふくよかに見えるだろう。
なんなんだろう……明らかに食事は苦労していないだろうから本人があんまり食べたがりではないのかな。
病気のにおいはしない。
しかし……
なんなんだあのおぞましいにおいは。
神力が変化した力がびっしりとこびりついている……
普通の神力そのものではなく彼を握って離さないような力そのもの。
あの力は彼自身を縛っているのか……それとも。
彼が腕として振る舞えるのか?
「王より、お言葉を頂戴したく存じます」
玉座付近へ同時に現れた1人が言葉をあげる。
何か書籍なようなものを渡したら広げて読み上げる。
「……ここ、神々の住まう園にて、貴殿らと、国賓を招く宴が開けた事を、誇りに思う」
――吹き飛ぶかと思った。
あまりに異様なインパクトを言葉を発するだけで感じる。
良くも悪くもラーガと比べ物にならない……!
「どうぞ、こちらへ……」
「国賓の方々、お願いします」
王と側近の声に導かれるように私達も歩む。
ドラーグとローズはまるで巨大な手に捕まったかのように身を固めつつ歩いている。
……広場に出たらさらに光景に驚いた。
みんなが跪いている。
そんなよくある光景が異様に感じられる……ということが驚きだった。
違和感にはすぐ気づく。
何人もの体が震えている。
押さえつけられているというか縛られているというか。
明らかに尋常じゃない。
王がスキルを組み立ててより強烈な牽引力を得ようとするのはよくあるし間違っていない。
だから使っていても変ではないのだが……
行き過ぎてほぼ攻撃になっている。
そしてスキルを使われたとしたら第一声を放ったあの吹き飛びそうなほどの圧力。
ただ害意は感じなかったしスキル特有の行動力消費反応や光が見られなかった。
かわりにはっきりずっと見えるのは王が纏う神力。
そう。王は神力を発していない。
わからないが封印しているわけでもないだろう。
封印しているにしては露骨過ぎる。
私達は玉座のある隔離された台の下につく。
王がそっと見下ろしてくるだけでとんでもない重みがかかる。
まるで誰かが上から抑えつけているようだ!
……あっ。
ふたりとも跪いたのに一瞬遅れてしまった。
急いで姿勢を合わせる。
「…………」
嫌な間がひらく。
ギロリと睨まれた……気がした。
「……朱竜神によりもたらされる炎によって晴れ渡る日にて、今ここに縁の紐が結ばれんことを祝福し、挨拶としたい。晴々しい心により、今銀竜の時結びが織りなされ、我々がこうして出会えた。美しき出会いは、5大竜が我々に喜びを与えんがために齎した命の響き合い。この時を金竜が齎もたらす永劫の宝とないるように、祝福をもたらしたい」
これはあの正式な長い挨拶……!
うう。やり直したい。