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四百十四生目 変貌

 ラーガはグレイが成長していくにつれていなくなってしまった。

 ラーガはアール・ラーガ王子に。

 グレイは辺境伯の息子アール・グレイに。


『ラーガ王子はいつの頃からか、めったに別荘へ足を運ぶことがなくなりました。ワタクシが成長していく中で頼れる兄貴分がふと来なくなった時のことを覚えています。話を聞く限りでは、何か大きな事件に巻き込まれたとか、陰謀渦巻くとか、そういったことはありません。成長につれ、彼は身に着けなくてはならなくなったのです。王としての力、そして教養を。おそらく、休みの日すら潰す勢いで』


 そして幼さが抜け出したグレイが王宮へ行く景色に変わる。

 王宮で出会ったのは……

 その金色の瞳が無感情に思えるほどにこりともしない険しい顔のラーガ王子だった。


『あの時の目は未だにはっきりと覚えています。氷のような目は昔の記憶では、あれほどまでに暖かったのに。ただその時は同時に、ワタクシを引っ張るのではなく国を引っ張る姿に見えたものです。その直感そのものはただしく、ワタクシを気にもかけず次々と王位継承権持ちとしての功績を上げ、並み居るシャイニングノヴァの中でも明確に頭角を表したんです』


 イメージはそこで途切れる。










『かなり……憧れのような面もあったんですね』


『あったかもしれません。けれどもう、彼との道は違えてしまったのだと、先程会ったことで理解してしまいました。どうしてああまで変わってしまったのかワタクシにはわかりませんが、人の心をどこかに置き去ることこそ王の道なのかもしれません……』


 アール・グレイが念話で語る内容が何となく先程のラーガ王子の姿にかぶる。

 あれこそが王なのならば……

 今の王は果たしてどこまで心ならざる存在になっているのだろう。


 その想いは目の前の扉を抜けたら明らかになる。


『あ、念話傍受ありましたね。偽装信号を送ってノイズ化させつつ……逆探知しました。すぐ近くにいるので見たら共有します』


『ほ、本当に念話傍受を……一体誰が』


 それはともかくゆっくりと側仕えさんたちが開いた扉の先は……

 ……室内なのに絶景だった。


 部屋の中なのに川が流れ。

 炎が焚かれて。

 植物たちが生い茂り。


 金と銀の調度品が彩られ広々とした空間はパーティー用に飾られていた。

 テーブルたちが複数あるけれどまだ誰も座っていない。

 代わりに中で目立つのは立って階段している複数のグループ。


 側仕えや騎士それに書記などは見た目や雰囲気が違うからわかりやすい。

 あきらかに群を抜いて目立つ者たちがいた。


 事前にある程度話は聞いている。

 その情報と照らし合わせると……

 まず手前側で優雅な雰囲気を纏わせている青髪黄目の女性。


 たくさんのニンゲンたちが取り巻きにいるし惹き込まれるような雰囲気。

 彼女は王位継承権第2。

 グーラ・アッジガル・アール・フレイ王女。


『彼女、フレイ王女らしき相手がどうやら念話傍受を試みたようです。私達のものだとはバレていません』


『王女が!? いや……フレイ王女ならば確かに……やりかねなくは、ないですね……彼女は非常に警戒心が強い』


 フレイ王女はラーガ王子に比べ表立って活躍するタイプではないのだが……

 裏から糸を操り思い通りの結果を導くための猛者。

 ラーガ王子が台頭した力のいくらからフレイ王女が行った可能性も指摘されているそうだ。


 そのため王候補からは外れるものの常に側で王すらもがんじがらめにするのが狙い……なのかな。

 そこまでいくと想像にすぎないけれど。

 ほとんどアール・グレイの受け売り。


 王位継承権3位と4位が……あそこにいる女性か。

 そして第5位があそこの男性だけれども。

 1位と2位に比べたらものすごいパッとするものは感じない。


 それと……あの若干遠くにいるニンゲンたちは?

 事前情報にはなかったような。


『あのー、シャイニングノヴァの方たちはわたくしにもなんとなくわかりましたが、少し遠くにいる方たちは?』


『今回、そこそこ急の集まりなので

集まれる者たちだけ集まった形になるんです。シャイニングノヴァたちが全員集まったのは驚きですが……少し遠くにいる方たちは、ワタクシと同じラディッシュノヴァですね』


 私達も念話で話しながらラディッシュノヴァたちの集団へ近づいていく。

 3チームしかいないようだし全員いい意味で王位継承権持ちぽくない。

 ローズクオーツが尋ねるのもわかるぐらいシャイニングノヴァたちと違い気が張り詰めていなかった。


 ただそのうちの1人をアール・グレイが見つけた途端表情が変わる。

 喜怒哀楽というより……『うわ』って言いたげの顔だ。

 視線の先は……なんとも不思議な相手だった。


 ラディッシュノヴァたちの中でもひときわ地味なのだ。

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