四百十二生目 衣服
私達3体は廊下を歩んでいく。
その間はかなり静かな行脚だった。
全員服を着替えたことにより謎の緊張が走っている。
お姫様とゴツい紳士そして馬子にも衣装。
三者三様だが気持ちはひとつ。
衣装を汚したくない!
全てアール・グレイからのレンタル品にはなるが同時に王宮に送られた衣装。
つまり貢物の中にはいっていた衣装たちなのだ。
慣例として渡したモノの中から借り着てその後に返し奉納完了。
一応この服はいらないものではないとか毒を仕込んていないとかの証明でもあるらしいが昔から残ってしまった習慣のひとつではあるだろう。
着回しのお古になるのでは? という不安はあるがなんと王宮側は受け取った服は全てアレンジするらしい。
つまり送った側よりもこちらのほうがきらびやかで上であるという明示。
実際量は半端じゃないから余裕が垣間見える。
その余裕は国中からかき集めたものなんだけれどね……
「おお、御三方とも! 見違えるような姿ですね!」
「……あ! アール・グレイさん!?」
「そうです、ドラーグさん。全員準備万端ですね」
メイドさんに案内された先で待っていたのは鳥車とアール・グレイ。
しかしその姿からは今まではなかった爽やかな香りが。
これは……香水だ。
そして服装はビッシリとキマった礼服。
やはり王位継承権持ちと言ったところか。
軽い見た目だけならきれいにまとまっていると思えるだけだが……
細かな服の加工な使っている布地。
それに身に着けた時の発揮するであろう装備としての価値。
どれを取ってみても半端ではない。
下手な鉄の鎧なんかより彼の体を守ってくれそうだ。
「では、行きましょう……」
アール・グレイの口調からもどことなく緊張と重みを感じる。
アール・グレイがやることそのものはつつがなく場をこなすことだけ。
しかし逆に言えば。
肝心な部分は他に託して魔境のような王政周りから悪印象を持たれずに逃げ切らなくてはならない。
彼の肩には国民たちの重みがある。
でも顔が青ざめていたりはしない。
どうやらあの夜でそこそこ腹をくくれたらしい。
アール・グレイを含めて鳥車に乗り込みさらに進んでいく。
一体もう何個目の王宮なのか。
建物の違いも良くわからなくなるなかやっとこさ目当ての場所までついたらしい。
……ニンゲンたちの気配が違う。
先程までは良くも悪くも凪いだ空間だった。
しかしここで急激に雰囲気が悪くなった。
荒れ狂う大嵐とは違う……だがまるでギリギリのところで糸が保っているかのような。
私たちは鳥車から降りて戦場に立つ。
この肌感覚を1番味わっているのはドラーグ。
動きがギクシャクしている……
対するローズクオーツは平和そうにあちこち見回っていた。
ただ私達の側を離れてフラフラ歩かないあたり普段と違う何かを感じているらしい。
私達が歩いて現場へ向かう途中で誰かがたったひとり立っていた。
その男は壁によりかかり立っているだけで絵になるような美しさと……異様さを兼ね備えている。
男の纏う雰囲気はどこか恐ろしい。
金色の眼がこちらを捉えた。
「アール・ラーガ王子……! どうして会場の外に?」
情報は全員に共有済み。
当然全員に一定の緊張感が走る。
ただ姿勢を正したくらいに見えるだろうから格上の相手に対する敬意に見えただろう。
目の前の相手こそ飛空艇をけしかけてきた犯人……!
金の髪は長く繊細なイメージを抱かせるのに体つきや雰囲気は非常にどっしりとしている。
単純に言えば目の前の相手。
出来る……!
おそらく何かスキルを使っているのだろう。
相手のにおいが読みきれない。
心が隠されている。
しかし隠れていても隠しきれないほどの威圧感。
間違いない。
激しい怒りを蓄えているんだ。
アール・グレイがラーガ王子に対して挨拶しようと姿勢を下げようとして……
「良い。ここは公的な場には1歩だけ踏み込んではいない。学びたての幼児みたいに莫迦正直にやられてもかなわん」
……止めた。
声からは感情が読めない。
それなのに体はこの声に従おうとするかのごとく固まる。
威圧感が……声を出すだけで段違いだ。
これが王になるためひたすら磨いたトップとしての力量……!
殴り合いではなく言葉1つで軍を動かすための力。
私は手のひらに汗がにじむのを感じた。
アール・グレイは少し耐性があるのか1番早く動きを直す。
それをラーガは見つつ言葉を続ける。
「上京中に強襲されたそうだな。しかも無傷……か」
変化の少ない表情が……ふと笑顔に変わる。
この空気感でわかる。
誤魔化しているが殺気だ!




