四百十生目 宗教
「やっっと……つきましたね!」
「あの無駄に広い庭、観光地にもしないなら本当にいるんですかね……?」
「そういうのは思っても心の中にとどめておくのが大事だよ、ローズクオーツ」
私達は鳥車から降りて先へ進む。
すぐに受付さんがいて案内されるがまま進む。
道なりにホールを進んで。
道なりに廊下をすすんで。
進められた方向に部屋をすすみ。
豪華な像を横切って。
扉の向こう側に進んで。
再び庭に行って。
「え!?」
「建物こえちゃったんだけれど……」
「建物の向こうに建物が……」
さすが地方や街からすらもあらゆる力を吸い取っているだけあるといわざるをえない。
精密な作りになっており王宮の奥に王宮があった。
何を言っているのか私にもわからない。
……嫌な予感がビンビンとする。
誰も口にはしないが全員と目があった。
次の建物へ向かうための鳥車を借りる。
乗ってしばらくして次の建物の中へ。
受付の方に道案内される。
ホールを通る。
部屋を抜けて。
廊下を渡り。
階段を巡って。
立派な壁画を横目に。
ぐるりと回った気がして。
扉を開けたら庭。
さっきまではそこそこ話していたのに庭にたどり着いた途端みんな黙ってしまった。
私も心が無になる。
その……わかる。わかるよ。
城という構造も持つ王宮は少なくとも余所者に対して最短の裏道を教えない。
防犯上問題ないルートは当然まさしく文字通りの意味で迷宮となっていて攻め込まれた時簡単に踏破されないようになっている。
でもなんかこれは違うんだ。
王宮の中は何もかも美しくキレイに整えられていて……
完全に生活の場というより観光客のいない観光場所のようで。
ひたすら豪華できらびやかで掃除している者以外誰もいなくて。
虚栄とか空虚とかそんな言葉が思い浮かんだ。
大量に外からかき集めた力を使ってただひたすらにこのハリボテを維持し作り上げているとしたらこれほどまでに無駄もないだろう。
心の中が深くふかーく長い溜息をつく。
真面目な話ここの財力でアノニマルースがいくつかできるかもしれない。
私は詳しくないがドラーグの顔がどんどん悪化していっているのをみるに把握している相手がこんななのだ。
ローズクオーツの心からは感情が抜け落ち冷え切っている。
ここまで大量に感情と情報が押し寄せれば一周回ってそうなるよね。
結局なぜか給水所みたいに各地の休憩場所を渡りあるきさらに奥まで進んで。
やっとこさ目的地へとついた。
「お疲れさまです、長かったでしょう、ここまで」
「なんだか……想像とだいぶ違いました」
迎えてくれたのはアール・グレイ。
それと……
「神様が住まう場所ってここのことだったんだなって思うくらい、規模がやべえよなあ……」
ウッダくんだ。
ウッダくんも支配貴族の指輪をしているし格好が完璧に仕立てられている。
奴隷だとは思われないだろう。
すでに色々パニックを起こしたり疲れて休んだ後らしく落ちついた様子だ。
実はウッダくんは今回ともに来るメンバーに入っている。
ウッダくんはアール・グレイの世話をすることで必死に学んでいくこととなっているわけだ。
ウッダくんに期待することは無知だ。
この中で唯一何も私達のやることをしらない。
知らないことは相手の懐に潜り込むには最適。
まあようはいればいいのでそこまで何かの期待はない。
何かやばい話に関しては契約魔法のほうが優先されて口が閉じられる。
1番の安全地帯でもある。
「少しの間、こちらの……まあどこでも良いので自由にしていてください。この建物はまるまる私達と仕えの人しかいませんから」
「あ、相変わらず規模がおかしい……」
「もう驚き疲れたので、一旦部屋を借りて休みましょう……」
ローズクオーツの言葉に誰も反対せずあとに続く。
建物内をひととおり見て回ろうとしたがそれすらも広くて憚られるので適当な小部屋に落ちついた。
「そういえば……この国の宗教、かなり独自のものだって情報がありましたっけ」
ドラーグがこぼす。
私達はここに来るまでの間にだいぶ宗教的な知識もアノニマルースから集められた。
他にも多角的にあつまったが中で見た情報よりもさらに詳しいものはこの国の宗教に関してだった。
大河王国は大河王国内でしか使われていない特別な宗教を持つ。
国内である程度派閥はあるものの共通項があるタイプだ。
5大竜の厳格な多神教なのだがそこに独自の転生概念が付与されている。
清き魂は上の階級にとか穢れた魂は下の階級にとかのやつだ。
「確か、かなり独自でしたよね。あれがどうしたのですか?」
「あれの中で、神殿のみに使われる飾り付けというのがあったんですよ」
ほら。とドラーグが指す先にあるドラゴンのレリーフ。
思い出してみれば……あの形は街では見なかったような。




