四百六生目 王都
アール・グレイはぐったりした。
「そんなに――」
「まあ、詳しいことは調べてみます。そうですね、今はこの本の話でもしましょうか」
アール・グレイは本を開いてこちらにだけ見えるようにして頭を指差す。
……なるほど。
"以心伝心"! 念話使用。
『話の続き、聞かせてください』
『混乱しないように気をつけてくださいね』
そうして念話と同時に別内容を話すという高等技術が始まる。
私はアインスと担当わかれれば良いだけだけれどアール・グレイはすごいな……
(よーし、まかせとけー!)
アインスに口から出る音は任せつつ私ことツバイは念話を担当する。
『ええ、表の方でちょっと言葉がおかしくても、気にしないでください』
『それはこちらも……では。まず先程、これから調べるとは言いましたが、実はほとんどわかってしまいました。その先が、非常に困ったのですが……』
さっき疲労度が急上昇してみえたのはこれが原因か。
表ではまったく違うことを話していて顔には出さず話の続きをうながす。
『というと?』
『……飛空艇所持疑惑がほぼ確定したのは、王都近くに1つと南端領地を構える者、王の直接的な第一子であり長男。そして私が将来的に王へ推す予定だった存在。第1位継承権を持つ王子、グーラ・アッジガル・アール・ラーガ。そこです』
……また大物が出てきてしまった。
『つまり、推すはずのトップに見事背中から斬られたと……心中お察しします』
『あそこだけは、王都を経由しても非常に流れがわかりにくいから、そなような動きがあるのかもしれないとだけ、伝わっていたんです。実際にやられるとインパクトは凄まじかったですけれどね』
『どうしましょうね、相手は絶対怒り狂っていますし、こちらも背後から刺す気マンマンの相手たちとは組めませんよ』
『ううん……シャイニングノヴァたちがあまりに良い選択肢がなさすぎる……』
互いにポーカーフェイスで念話とまったく違うやりとりを表でする。
顔や尾を崩さないのが大変だ。
そこらはアインスがうまくやってくれている。
『シャイニングノヴァ、とは?』
『あ……申し訳ありません。王位継承権を持つ上位5名のことです。形式上ワタクシみたいにラディッシュノヴァ、つまりは下位の王位継承権持ちも王になれますが、事実上はシャイニングノヴァの5名から選ぶんです。正直2から5はかなり厳しいと言うか……少なくとも調査した結果、王の器とは言えません。アール・ラーガは少なくともその豪腕によって、凄まじいリーダーシップを発揮しますから。良くも、悪くも……』
今回のは明らかに悪い方向が出てしまったと。
確かにたった1つの領地主を斃すのにやりすぎなくらいやった。
雑兵はともかく直接の指揮下っぽいリーダー班たちはみんな士気が高くなっていた。
良く言えば引っ張る力が凄まじく悪く言えば誰も諌められない。
戦場にいなくてもその力なのだからよほどなんだろう。
『もう最悪、上位5名の中から選ぶという慣例も打ち破る必要が出てくるかもしれませんね』
『えっ!? ラディッシュノヴァからですか。でも彼らは基本的に王政については……いや……そういえば……しかし……』
念話と同時にあれこれやるのはそろそろ限界か。
どれもこれも集中力をかいてきて念話すら雑になってきている。
ここいらでやめておこう。
「それでは、今日はこのへんで一旦眠ったほうが良いのでは?」
「……それもそうですね! では、また明日」
アール・グレイは少しフリーズしていたが無事処理が完了したらしく本を閉じて離れていく。
その日はそれで何事もなく無事にすごしたのだが……
後日噂で夜にふたりが会話していたことが話になる。
話だけでは噂にはならない。
両方様子が変わっていておもしろいのだとか。
片方は普段のよどみない会話がどこへやら言葉に詰まりまくり……
もう片方はふわふわしていたのに急に言葉が真意を突いたりしていたそうな。
……それはこわいな!
翌朝からの日程は順調だった。
しかしみんなまたあんな襲撃があったらたまったものじゃないと目に見えて疲れ……
ゴルガすらも王都へつくころには死人のような顔をしていた。
顔が一番明るかったのは顔を覆っているドラーグ。
「つ、ついた……やっと、護衛の終わりだ……」
王都。
それは外観からして異様とも取れる光景だった。
辺境の立派な都会を10とすると突然1000以上のきらびやかさを出されるのが王都。
特にこれまでの道中はそこまで豪華という感じも整備が行き届いている感覚もなかった。
目の前に立ちはだかる潔白な壁とそれを越える大きさので突き出て見える特徴的な王宮が見えた。
あまりに大きすぎて飛空艇すら小さく思えてしまうだろう。




