百四十五生目 同質
ほんとどうするのだ私。
私という人格がアインスと言う魔物としての人格から分裂した人格だったとは。
前世の知識やら魂やら精神の影響で急激に変化したさい出来た存在が私であり、オリジンは目の前で美味しそうなお菓子を頬張る彼女。
精神世界だからこうやって対面出来ているわけだが……
現実世界に帰るさい、どうする。
「ねえ、アインスはやっぱり身体動かしたい?」
「うん」
「でも大変じゃない?」
「んー、ベツに"わたし"はそういうタイヘンそうなのはおいて、みんなでゴロゴロしていたいなー」
だ、ダメだ!
この子とはドライと違って向いている方向が違いすぎる。
このままだと私の群れを無視して行方をくらましかねない。
「で、アインスは何がやりたいんだ?」
「んー、お菓子食べてーゴロゴロしてー遊ぶの!」
「それじゃあしたいことだけして後はあそこのツバイに丸投げしといたら?」
「まるなげー?」
「めんどくさいことは全部ツバイにおまかせしちゃえ! って事だ」
おいこらそれどういう事だドライ!
扱いひどくないか!
「あ! 良いかも! "わたし"はおかしたべる担当ー!」
「よーし、"私"はぶっ殺す担当ー! あそこのツバイは雑用ー!」
「ざつよー! あ、もうあばれないからこれはずしてー」
……ん?
あれ、これ言い方変えただけでほとんど私に譲ってくれる話じゃあ?
アインスの鎖が外れて自由になったが暴れる様子はない。
……ドライがこっちにウインクと舌出しをこっそりしたのは見逃さなかった。
……恐ろしい子!
細かく話を詰めると結局アインスとはほとんど意味のない対立をしていた。
アインスは奥においやられ切り離されさみしかっただけであったようだ。
アインスはオリジンとか気にしておらず、『どうでもいいー』と言われてしまった。
それよりか雑用押し付けられるのが嫌だったらしい。
私がサブみたいなもんだから……とちょっと卑屈になりかけたが、もはやここまでこうやってきたのだからと向こうも思ってくれていたし私も開き直る事にした。
まあ今度は3つの私達で、ね。
和気あいあいしてきたところでドライが私だけに小声で話してきた。
アインスはお菓子食べている。
「アインスなんだが……
確かにただの子どもっぽいがそれは性格だけだ」
「え?」
「知能は"私"達と共有しているし、肉体から力を引き出すのはむしろ"私"より上かも知れない……技術の使いこなしは遥かに"私"が上だろうがそれでもとんでもない力を感じる」
つまりはアインスはあくまで私達の知識や知能がある状態でアレを保っているのか。
様々な影響を受けてもむしろ保護するように抽出された自分の根がアインス……
「"私"から見ればツバイとアインスが同じ存在というのは良く分かる。平和を好むしゴロゴロと休みたがる。自身のために調理を求めるあたりもだ。アインスはツバイがトランス前に忘れかけていた『童心』なのかもな」
トランス前にむちゃし続けた私が置いてけぼりにしかけた存在か……
それがトランス時に改めて確立し表に出てきたのは偶然ではなかったのかもしれない。
アインスは改めて求められて出てきたのだ。
「ま、実際の頭の中が同じはずなのにあの性格のままってことは……」
「あくまでアインス自身のために、空気を読んでくれたわけか」
アインスはアインスでオリジンなのにこれでいいのかどうか悩んでいたのかもしれない。
どこか自分が頑張らなければならないと踏ん張り前へ出ようした部分もあったのかもしれない。
ドライの一芝居に乗ったのだ。
……まあ何処かで私が頑張らないと思い込んでいたのは私も同じか。
みな同じ自分なのだから、誰か1番だの2番だの気にせずに色々わけあって自分なりにやっていこう。
味方なのだ、アインスは。
つまりはアインスとは幼い私の根の部分が具現化しただけであって私とは別ではない。
むしろ根源的に同じ存在。
余計な見栄や知識による外の殻を取り外した存在というわけだ。
「これからもよろしく、アインス」
「うん! たまには変わってね!」
アインスは額の目を閉じ笑いながらそう言った。
私もアインスもドライもいる。
きっとこの先も大丈夫だろう。
現実世界での目を開いた。
戻ってきたわけだ。
……ってなんなんだこれ?
周囲には妖精ふたりに淡く輝く光たち。
むき出しだった土地に薄く緑が生えている。
どういうこと?
「……あっ!?」
「おお、さっきはなんか集中してたみたいだから声をかけなかったけれど、これスゴイな!」
妖精たちは根をはり地面から栄養をとっていた。
なぜここで……というかこの光や微妙に苔むした地面は一体?
「ねえ、この周りの光って何か知っている? それに地面にもさっきまで無かった緑があるし」
「あれ? 知らなかったのか!?」
「これはローズさんが集中していたさいに周囲に漏れ出していた魔力が力となって、土地や空気に活力が満ちているんですよ」
「え、そうなの?」
確かに私は4種類の魔力を混合させて、その時に精神世界からおよばれしたから自然に霧散させたけれど……
目に見える程に力が周囲に漂ってエネルギーとして土地に活力を満たしていたとは。
それほどまでに4種混合魔力は力が膨大なのか。
「ちょっと練習したいことがあって、それの副産物みたい」
「そういえば癒やしの力も使えるんでしたね」
「なるほど! 魔法も使い方次第だからナー! 美味かったよ!」
まあ詳しくないけれどこういう時もあるのだろう。
そう納得してドラーグが帰ってくるまで待つことにした。
ちなみに妖精たちは魔法で帰ってきていたようだ。
どおりで帰還が早い。
夕方ぐらいには空を飛んだドラーグが帰ってきた。
4枚の翼で静音かつ高速に移動できるあたりかなり便利。
実際に気配を消してここまで一度も誰にも攻撃されなかったらしい。
「まあ何度も見つかりはしたんですけどね」
「ありゃ、そうなんだ」
「ええ、でも認識はされていません。全て背景に溶け込んでやりすごしましたから」
ドラーグが言うにはトランスして成長した隠密力で『見ていてもドラーグをドラーグとして認識できなく』したらしい。
「鍛えて貰った狩りの技術を応用したんです。相手が景色の1つだと思いこんでしまえばいないのも同然ですから」
「そんなことも出来るんだ……」
森を森として認識するようにドラーグはこの荒野の一部として認識され見られているはずなのに一切認識されなかったらしい。
なにそれこわい。
究極の影の薄さといったところか。
ともかく無事に合流出来たわけで大事なのはここからだ。
何せ2つの巨大な群れを止める必要があるからだ。
ドラーグを通して見ただけでも数えるのが嫌になったほどで……
(へびさん856匹、クモさん1054匹見かけたよー)
……えっ!?
アインス、もしや数えてたの?
(うーんというか、パッと見てわからなかった?)
いやでもあんなに群れて移動し続けるのを数えるのは……
(そりゃ1個、2個って数えてたらわからないよ? でもこのぐらいならパッと見ただけでわかるよー)
(……つまり直感的に分かる程度の数でしか無かったと?)
(うん!)
ドライが言うことが本当ならアインスにとってはまるで3つ4つのものをわざわざ指折り数えないようにあの大量の数を一瞬で理解したらしい。
もちろんあの中に居たやつらが全員ではないだろうが……それでも大きな情報だ。
ありがとうアインス!
(えへん!)
(どうやらアインスはこんな感じにデタラメな部分があるみたいだな。今後も大事にさせてもらおう)
だね。
私が分かった事をみんなに伝えよう。