四百四生目 索敵
飛空艇は明らかに機能不全に陥っていた。
ドラーグに最終段階の指示を出す。
『わかりました! まあ、多少ならやれると思います! フルパワーではないですが、今回はそのほうが良さそうですし』
ドラーグは念話で快諾してくれて船体のほうへと飛ぶ。
ただでさえ嫌がっていた飛空艇はいきなり飛び込んでくるドラーグには阿鼻叫喚ものだろう。
そのままガッツリと船体に爪を食い込ませ張り付くように乗る。
「はい、逃げてねー! 離れてねー! いいかなー!? いくよー!」
"鷹目"で見る限り船上にいた乗組員たちは全員全力で逃げている。
それもそうだろう。
ドラーグの体にどんどんとエネルギーが高まっているのがどこからでも見えるのだから。
流石にここからは飛空艇内の声は聞こえないし剣ゼロエネミーは脱出済み。
だけど想像はできる。
……こんなはずじゃなかったという悲鳴が。
「チャージ完了! 竜の息吹!!」
黒々としたエネルギーの奔流がドラーグの口から放たれる。
それは芯をもっているような光線となって通りがかるもの全てを壊す。
飛空艇に着弾すれば当然即抉るわけで。
大爆発が起きた。
『ど、ドラーグ、誰か死んでない!?』
『よっぽど運が悪くなければ大丈夫です、単発で切って、飛空艇の上方面だけで爆発し霧散するように考えましたから!』
ドラーグが言うようにモクモクと煙が上がっているのは上だけ。
どうやら見た目より致命傷は与えていなかったようだ。
ただそれと外部の攻撃によって船が大穴あいたのは別。
飛空艇から何か爆発じゃない大きな音がする。
高音に響いた音は徐々にテンションを落としていっている。
まるで駆動する動力がどんどんと低下している時のような。
ドラーグが飛空艇から離れれば顕著になる。
唸る音は悲鳴の音に変わってゆき。
飛空艇は煙をはきながら高度を落としていくうえ制御不能らしい。
少なくともこちらじゃない方向へ行く。
あっちは確か……よし。
ラッキーだ。
「い、今のうちにここから離れるぞ。あらたなターゲットにされたら敵わん」
「黒竜……神ではないとは思うが、神のごときおそろしき力……」
「ほんと、あの黒竜、いや黒竜さまか? 船のほうに向かってくれやあいいんだけどなあ……ただ、それはそれで落下しそうな地点にいそうなやつらが心配だ。それに人のいる鳥車がわからないのもやっぱ不安になるな……」
「あー……あっちなら、多分心配ありません。なぜなら……」
私はゴルガや御者に注目されつつ向こうの話をする……
向こう側。
実はそこにいた鳥車こそがアール・グレイたちニンゲン入りの鳥車だった。
それをわかっていて防御がおろそかな私ではない。
直前までは普通の隊列だったが混乱でバラバラになったときにノーツとローズクオーツは同じ鳥車に連れて行った。
誰も違和感には気づけていない。
「殲滅開始。殲滅終了。殲滅開始。殲滅終了」
「お、おう……」
「見かけ次第倒してくれてありがたいけれど……」
「ものすごく怖い……」
ノーツはただただ基本をこなしている。
発見次第総力を持って撃つ。
終わったら索敵を続ける。
生き物では不可能なムラのない常時索敵をあらゆる方向と障害物を無視した探査で今のところ誰よりも早く見つけられている。
それは敵たちよりも早く。
簡単に言うと敵たちはすごく困ったことになっていた。
何せ敵たちが騒動を聞きつけ地形を乗り越えて視認しようとした瞬間に遥か遠くからミサイルが飛んでくる。
爆発する弾丸もとんで来る。
色々試しているようだがいまのところ有効打はない。
大量に襲ったところでノーツが見つけたということはクオーツたちも攻撃できるということ。
初撃で落とせなくても大量の遠隔攻撃が飛んでくる。
そして今は警戒を続けているものの唯一普通に移動ができていた。
空からの砲撃もノーツやクオーツが徹底的に防いでいる。
砲台から砲弾を予測して危険範囲外へと全て誘導していた。
そして今。
唸りを上げて落ちてくるのは飛空艇。
見事なまでのシチュエーションだ。
『ノーツ、ローズクオーツと一緒に船の駆動部を狙って再度上がらないようにして。そのあと、できうるかぎり飛空艇の出入り口を封鎖』
『了解。モードを移行』
『わかりました! ノーツ!』
ローズクオーツはノーツの近くまで行くとノーツの体中央部分が開く。
そこにローズクオーツが飛び込んで正面を向き直り。
扉が閉じて立ち上がり武器を構える。
「な、なんだ?」
「少し離れていてください!」
「射撃モード、変更。武装提案」
「なるほど……じゃあ、まず私が作ります!」
飛空艇に向けられた銃口が美しく磨かれた輝きを返していた。




