四百三生目 上空
ドラーグ100%の姿が天空に現れた。
私としては……わあいつも通りのドラーグだあぐらいだが。
当然みんな知らないわけで。
「ど、ドラゴン!?」
「黒竜……? なんなんだ、あの竜は!」
「さっきの飛空艇爆破はあいつの攻撃か。偶然だが助かった、逃げよう」
「ぜってぇヤバい……震えが止まらない」
「ドラゴンに敵とか味方とかあるわけねえ! 逃げるんだ!」
「ひいぃ……!」
もはや悲鳴は敵も味方もない。
勝手に三つ巴状態だと認識された。
実際空の事故で空の巨大魔物にぶつかられるものがすごいらしい。
ドラーグはというと出現したは良いもののドラーグの切り札は特殊な値を消費するのでまだ無理。
確か敵を攻めたり攻められたりしないと溜まらない力。
なので。
「えー……ぐおおおおっ」
雑に脅すのが彼の仕事。
ドラーグ自身は慣れてなくても翻訳機能をオフにしたまま叫んで貰えばそれだけで耳を抑えたくなるような大咆哮となる。
剣ゼロエネミーを通して船内では外の脅威にも悲鳴を上げていた。
何せ中では謎の不具合。外では威嚇しているドラゴン。
一方的に有利だと思っていた状況でひっくり返されると誰であろうと錯乱はする。
それはさっきまで安全な旅だった私達にもつながる。
ドラーグの攻撃は全力の動きを知っている私からするとすごく手抜きだった。
それもそのはずドラーグには野良魔物を演じるように言ってある。
ドラーグの身につけた強さの大半は訓練の賜物だ。
「えー、影爪! もっかい! それと、ブラックブラスト!」
ただ飛空艇は現在単なる的である。
肝心の速度も殺して上空から地上を撃っていたせいで再度速度が乗るのに時間がかかりすぎる。
さらに繰り返すが内部では謎の不具合多発中だしね。
振るう爪が黒い光を帯びて振り抜くと一瞬何も起こらないように見える。
しかし飛空艇に当たる直前になって大きな黒い光の斬撃が可視化される。
それをもう一度やったあとに口から黒い光の球を放った。
飛空艇は避けられるはずもなく土手っぱらに派手な着弾をする。
堅牢なコーティングをされエネルギーシールドもある飛空艇がこの程度では落ちない。
落ちないが……今シールドにエネルギーを回すのはまずいのだ。
そう。
ここらへんで剣ゼロエネミーが供給源を断った。
更にドラーグが適当にしゃべっている内容も翻訳リングをはずしている今だと他の面々からは。
「グガアァ!! ゴオオォ!! グジャアアアアア!!」
とまあ化け物が怯むような声。
名演技でもあるが本人の知らない範囲でドラゴン言語ってまあまあ怖い。
周りからの悲鳴も凄まじい。
大暴れするたびにこちらへ被害が来ないかと不安になるわけだ。
これはもうひと押し。
『ドラーグ、誰もいない地面を狙って派手な遠隔攻撃あちこちにできる?』
『え? あ、はい』
ドラーグは何か理解したのかすぐに行動を移す。
空から地面に仰々しく目線を向けて……
6枚の翼が光で輝き羽ばたいていると次々と衝撃波が光となって飛び込む。
それらは乱雑……に見えて正確に地面へと吸い込まれていく。
空から見たらおそらく地上のみんなは必死に避けているだろう。
さりげなく敵陣に多く味方鳥車付近には落とさないように工夫しているのだが細やかな気遣いは気づかれないからこそ効果を発揮する。
「うわああぁー!!」
「逃げろ、逃げろ!」
「戦いどころじゃねえよ!」
「お、おいバカ、隊列を乱すな! 逃げるな!」
元々士気の低かった雑兵たちの心にヒビがはいった。
こうなれば止まらない。
不安の連鎖はどんどん広まり集団の力で増幅される。
先程まで上空は味方だったのにもう今では死を振りまく存在。
自分たちがやったことをそのまま返されたわけだ。
『あれ、手数と範囲をカバーするってだけで、ぜんぜん火力不足なんですよね。防御型の能力なんです』
『うまいこと騙せているみたいだよ』
実際私も私より遥かに大きな攻撃がおぞましい速度で接近してきたらビビると思う。
しかも数がとんでもない。
地面に当たることで粉塵や爆発も派手に起こりパニック化できている。
ドラーグにはさらなる船体への攻撃をしてもらっているが。
さすがにたまらず反撃をドラーグにしてきている。
まだなんとか開いている砲台や上部に備え付けられているバリスタなどが動いているが。
……明らかに武装が貧弱。
おかげでドラーグは受けることにそこまで苦労しておらず"防御"系の能力で防いだりはたきおとす。
"鷹目"を遠くにして様子をうかがう限り本来展開できる派手な武装の数々が動かないようだ。
さっき斬ったどれかの線やエネルギー不足だろうなあ……